国鉄が苦肉の「警告板」 若者は足蹴りして無視 電車の屋根に乗る乗客

 通勤ラッシュの早朝、ジャカルタのパサール・ミング・バル駅のホームに立つと、郊外から到着した電車の屋根に大勢の若い乗客が座っていた。パンダグラフや高圧電線がいかに危険か。走行中に落下したり、感電死した人は数知れない。最近、国鉄は屋根に乗る無謀な乗客を追い払うために、走行中の電車の屋根の「異物」を払いのけるように、電柱に「警告板」を設置したが、蝶番で一度曲げても元に戻ることから若者たちは足蹴りにして「難」を逃れ、まったく効果がない。こわいもの知らずの若者たちの危険な習慣が十年一日のごとくなくならないのは、首都の大量輸送機関があまりにも貧弱で、通勤電車は朝夕、超満員。車内はボロボロで、かっこ悪いことが原因のようだ。(高橋佳久、写真も)

 「電車の屋根に乗るなんてよくないことだ。危険きわまりない」
 毎日、ボゴールから通勤するアムロさんはこう語る。朝の通勤や夕方の帰宅の時間、首都圏(ジャボデタベック)を南北に結ぶ国鉄はジャカルタの公共交通機関のうちでも最も混雑する。
 若者たちは、混雑を嫌い、ちょっぴり冒険気取りもあって電車の屋根に乗る習慣がある。感電や落下事故を防ぐため、国鉄は放水で屋根から引きずりおろしたり、防護柵を設置したりしたが、若者たちの悪習はいっこうになくならない。
 列車の中の混雑ぶりを体験するため、別の日、マンガライ駅からパサール・ミング・バル駅まで電車に乗ってみた。エアコンがついていない電車の運賃は、千―二千ルピアと安い。
 そのため、毎日、西ジャワ州ボゴールなど近郊都市からジャカルタへ向け、サラリーマンや学生が通勤・通学に利用する。だが、電車の本数は朝の通勤時間帯でも、一時間に六本ほどで、あふれる乗客を収容しきれない。
 先頭の行き先案内は「鷺沼」。「車内では電源をお切りください」と日本語の注意書きが残されており、中古で輸入された東急田園都市線の電車だ。
 車内は足の踏み場もなく、日本の通勤ラッシュを超える超満員。十分ほどで吊革をつかむ手がしびれてくる。幼い子どもを抱える女性が床に座り、周りの男性が手を突っ張り守っていた。
 空調は天井に設置された扇風機がまわっているだけだ。汗の匂いが車内に充満し、子どもは親にしがみつき「パナース(暑い)!」と叫んでいる。
 車内から屋根に登る人や、屋根に座り続け、大声で警告する警察官に罵声を浴びせる人もいた。
 車両のドアは開いたまま。電車の外のステップに乗り、しがみつきながら乗車している人も。開いたままの入り口から外へ足を投げ出し、ステップに腰掛けていた乗客は鼻歌を歌っていた。
 国鉄は、日本の政府開発援助(ODA)で、電化や踏切、信号の整備など近代化を進めたが、ジャカルタ首都圏の急激な拡大で、国鉄の通勤客の輸送力は追いつかない。
 昨年十月、子どもが感電死するなど、電車の屋根に乗ることは、危険な上に電車の運行にも悪影響を及ぼしている。屋根裏乗客を一掃するため国鉄はさまざまな手を打ってきたが、冒険気取りの若者たちと、いつもいたちごっこ。危険防止のためのルールを守らない若者の風潮に国鉄は頭を痛めている。
 国鉄本社のアフマッド・スヤディ広報官は「パサール・ミング・バル駅とカリバタ駅に、警察と国軍から警察犬を借りて配置し屋根から追い払おうとしているが、効果はまだない」と語る。パサール・ミング・バル駅では、警察犬が屋根に上るための台を設置したが、犬は上らなかった。
 これらの若者の危険な習慣について、ジャカルタ市民の多くは批判的だ。ボゴール駅からマンガライ駅まで通勤しているアムロさんは「警察犬で追い出すことは可能かも知れないけど、私たちはムスリムだ。他の乗客にいやな思いをさせないでほしい」と懸念する。
 パサール・ミング・バル駅近くに住むパリスリーさんは「屋根に乗るのは良くない。犬を使ったり、警告板を設置するなどの対策はあまり意味はないだろう」と語った。

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