【動きだしたパティンバン(上)】漁村の土地売買加速 工業団地開発、計2000ヘクタール 「中国人が養殖池に投資」

 日イ首脳の合意で始まった国内最大規模の国際港「パティンバン新港」の建設。2017年内の着工を目指し調査が続く同港の周辺を訪れると、未来の産業集積地への期待から土地の売買が活発に行われていた。
 「あの海岸を見て。投資家がこの前買っていった」。そう話すのは、パティンバン新港の建設予定地にある海水浴場を訪れていた男性(35)。構想が浮上して以降、土地売買のチャロ(ダフ屋)をしたことがある男性によると「以前の数十倍の地価で売買された場所もあった」という。
 パティンバン村はジャカルタから東に約100キロほどに位置し、もともと漁業が盛んな地域。同村内にある土地の利用状況をみると、魚の養殖池の占める割合が5割を超える。建設予定地でも網を仕掛けて漁をしている漁師の姿がみられた。
 石井啓一国土交通相は12月28日、ジャカルタから片道約5時間かけてパティンバン新港の予定地を訪れ、同地の状況を確認した。パティンバン新港はインドネシア現政権の掲げる「海洋国家構想」に基づく重点政策の一つ。既存の北ジャカルタ・タンジュンプリオク港の取り扱い容量が限界に達しようとしている背景も計画を後押ししている。
 石井国交相が訪れた28日、パティンバンではいつも通り漁師のほかに魚釣り、水遊びを楽しむ住民の姿でにぎわっていた。
 予定地の近隣には小さな海水浴場があり、休日は子どもや家族連れが訪れるという。海水浴場のそばには焼き魚などを提供するワルン(屋台)が並ぶ。ワルンを訪れ話を聞くと、「毎日ここに来て漁をするだけ。政府の計画なんて知らない」と話す漁師がいる一方で、「以前チラマヤにつくる予定だった新港計画がだめになり、ここ(パティンバン)に変更になったんだろ」との声も。住民の新港計画の周知状況がさまざまな中、「1年くらい前に中国人が広大な土地を購入して養殖池の運営を始めたようだ」という「投資話」が住民の間に浸透していた。
 運輸省の調べなどによると、現時点で複数のデベロッパーがスバン県内に合計2千ヘクタールの工業団地の開発を計画している。スバン県の17年最低賃金は月間232万ルピアと西隣のカラワン県に比べ3割超ほど安い。パティンバン港の建設で17年以降、ジャカルタからさらに東へと産業の集積地が移行する動きがあるのは間違いなさそうだ。(つづく)

【キーワード】
パティンバン新港 2016年5月の主要7カ国(G7)首脳会談(伊勢志摩サミット)の拡大会合に合わせて訪日したジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が安倍晋三首相と懇談し日本の円借款を受けて整備する方針を確認、日イの共同案件としてスタートした。以前、国際協力機構(JICA)などが西ジャワ州カラワン県チラマヤで新港建設に向け、調査していたが、一部国営企業の反対を受け、スバン県パティンバンに変更した。最終的な同港のコンテナ取り扱い個数は20フィートコンテナ(TEU)換算で750万個で、国内最大のタンジュンプリオク港並みの国際港となる計画。(佐藤拓也)

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