ハイブリッドワーク

 今年も残すところあと1カ月を切ったが、振り返ってみると経済活動のペースから渋滞のひどさに至るまで、あらゆる面でコロナ前の状態にフルに戻った一年だったと感じる。ただ、多くの人にとって、コロナ前の状態から大きく変わったままなのは、働き方、特にオフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークが常態化したことではないだろうか。
 ハイブリッドワークをどの程度適用していくかは、仕事の性質やそれぞれの組織の方針などによって差があるだろうし、生産性やエンゲージメントの向上に資するかどうかについても各々の状況に依存する度合いがが高いだろう。
 興味深いのは、ここへ来て国や地域ごとにもハイブリッドワークの程度やトレンドに違いが出てきていることだ。もともとリモートワーク比率が高かった米国では、これまでも企業による出社を奨励する動きの高まりが何度か繰り返されてきたが、足下では従来リモートワークに寛容だった大手テック系企業にも出社奨励の動きが広がっている。一方、欧州はリモートワークを引き続き許容する傾向が強く、一部にはこれを従業員の当然の権利として認識する向きもある(オランダやアイルランドでは非雇用者にリモートワークの権利を一定条件下で認めることを法制化)。日本も出社比率は上昇傾向にあるようだが、残念ながら企業側のIT面のサポート不足もその一因と言われている。
 インドネシアも一般的には通信状況を含めIT環境は必ずしも良好とは言えないが、ハイブリッドワーク自体は少なくともジャカルタのオフィスワーカーの間ではかなり根付いてきていると言えよう。今年8月には大気汚染対策でジャカルタ州政府から在宅勤務が奨励され、特段の驚きもなく受け止められたが、これは民間のみならず行政スタッフも相応にハイブリッドワークを習慣化させている証左だろう。シスコが昨年世界27カ国を対象に実施したハイブリッドワークに関する調査では、インドネシア人回答者の83・5%がハイブリッドワークを希望しており、これは対象国の中で最も高い比率となった。
 もちろん、前述のような状況依存性もあってか、ハイブリッドワークの実際の運用状況については企業や組織によって差があるようだ。インドネシアの銀行セクターでも100%の出社を義務付ける銀行がある一方で、3〜4割程度の在宅勤務を許容する銀行まで各行各様だ。米国では、最近のアンケートで、4社中3社が、どの程度社員に出社を求めるかが経営層で議論するトピックの中でも最も対立を招きやすいと回答したとの結果もある(10月17日ブルームバーグ記事)。おそらく、ハイブリッドワークの是非や効果についてまだ考え方が定まっていないことも背景にあろう。
 ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授は、ハイブリッドワークを通じて生産性を高める方法を「場所」と「時間」の両軸で考えるアプローチを示している。例えば、職場は協働を推進する場となりうるが、その前提となる信頼関係や帰属意識を育むには同じ場所のみならず同じ時間を共有することが必要となる。また在宅勤務は、通勤時間の削減のみならずプライベートな用事も含め柔軟な時間配分で効率を高められる余地があるが、場所としても集中力を高めてタスクを進められるような環境を整えることが必要となる。
 働き方の選択肢が増えたことは、コロナを経験したことによる思わぬ恩恵の一つだろうが、その意図や効果を十分意識して運営していきたいと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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