直接投資と成長経路

 先月、インドネシア投資省より今年の第3四半期(7〜9月)の外国直接投資の実績がアップデートされた。前年同期比では16%増となり、これで8四半期連続(約2年間)で2桁%の増加が継続していることになる。コロナ以降からの回復トレンドをそのまま維持して力強い成長が続いていると言えよう。
 この増加トレンドのかなりの部分は、資源下流化への投資で説明がつく。足下でもニッケルや銅といったベースメタル(卑金属)の精錬など下流工程への投資のニュースが相次いでいるが、統計的には卑金属・金属製品のカテゴリーが過去2年間ほどは年1・3倍程度のペースで増加し続けており、これが全体の伸びを牽引する。逆にこの部分の増加が無かったと仮定すると、直接投資額の伸びは比較的マイルドなものとなる。
 東南アジア諸国の中で、足下の直接投資額が増加トレンドにあるのはインドネシアだけではない。今年の上半期の実績だと、タイは前年同比138%、ベトナムも同31%の増加と、いずれもコロナ期の落ち込みを打ち返して余りある水準となっている。タイは電機・電子産業がこの伸びを牽引、ベトナムの方は統計上の分類が大まかではあるもやはり製造業への投資の伸びが突出しているが、ここへきて両国とも外資企業のサプライチェーン見直しや中国からの生産シフトに起因する投資増加の恩恵をかなり受けているようだ。ちなみに直接投資の絶対額の国際比較は、定義の違いもあり容易ではないが、インドネシアは少なくとも国内総生産(GDP)規模相応にはタイやベトナムを上回っている模様なので、インドネシアの投資受入額の水準自体は良好と言えるかもしれない。
 かつてアジア諸国の経済成長を説明するモデルとして「雁行形態論」が盛んに使われたことがあった。各国の経済成長モデルが、あたかも雁の群れが飛んでいくように同じ経路を辿るとの考え方だ。一般的には、輸入代替から始まって、労働集約的な輸出志向へとシフトし、技術移転等によって徐々に生産性を高めていく、といったような経路が示される。そしてこの成長経路の中で外国直接投資は欠かせない要素と位置付けられる。
 これは日本や韓国といった国が雁の群れの先頭にいて、他のアジア諸国もそれと同じ経路を辿って成長するとの含意だが、少なくとも90年代か2000年代の初め頃まではそれが当てはまっていたものの、いくつかの国々が中進国入りするにしたがって、次第にそれぞれが別々の経路を歩みはじめているようにも見える。
 先日、インドネシア政府高官の職を務めた経験のある方と話をした際、ハビビ元大統領がスハルト政権下で進めていた国産航空機の開発プロジェクトがもし続いていたなら、インドネシアの技術的優位性や人材の厚みも今とは違った姿となっていたかもしれないと語っていたことが印象に残っている。歴史に「もし」は無いのでわからないが、もうしそうなっていれば、より製造業志向の強い産業政策や誘致政策が採用され続けた可能性はあるかもしれない。ただ現実的には、インドネシアは既に群れを離れて独自の成長経路を歩んでいるということではないかと感じている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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