海洋ごみ回収が目指す「次」
海パン持って出張すると災いがおこる。インドのムンバイでは宿泊ホテルが火事になり、韓国・釜山では竣工直前のLNG船が台風で座礁、大切な契約書類を紛失しかけたことも。今年6回目のバリ出張では、ごみ回収船とビーチクリーナーで浜辺の清掃事業を行っているが、未だ問題多く、今回も海パンは持っていない。
企業の社会貢献活動はCSRとよばれるが、当社ごみ回収の取組みはCSV(Creating Shared Value)。つまり、社会問題を解決することが企業の利益につながる、環境保護と利益を同時に追求するもの。CSVをバリ島でどう実践するか、海洋ごみを回収し、海岸をキレイにすることで受益者に清掃の費用負担をお願いしている。
また、費用を負担いただくのは、事業の継続性を保つ目的でもある。一企業がコストを負担し続けるのは大変で、会社業績次第では予算カットとなる。ずっときれいな海岸を守っていきたい、泳げる海にしたい、一時のイベントではなく、海を守りを続けていくためには協力が必要だ。
全長6㍍。ドラフト(喫水)70㌢。定員3人——。フリート最小のごみ回収船「ARIKA」は、洋上に漂う様々なごみを回収する。ペットボトル、スナック菓子の袋、流木や海藻などと多種多様だ。
集めたごみは近くのごみ回収リサイクル会社に引取ってもらい、プラスチックは再生利用され、海藻類は発酵乾燥後にコンポストとして販売、また集めた海藻の一部はウミガメ保護センターで餌となる。
最近、海洋マイクロプラスチックが環境汚染の一つとなって社会問題にもなっているが、拡散されたマイクロごみの回収は難しく、細かく破砕される前に回収することも大切だ。
一方で当社は、南スマトラ州でマングローブ林2万3000㌶の保全植林事業「REDD+」を行っている。REDD+は、途上国が自国の森林を保全するために取り組んでいる活動に対し、経済的な利益を提供するというものだ。
端的に言えば、マングローブ林を伐採するより保全する方が、地域住民に対し経済的に高い利益を生むようにすることで、森林破壊や地球温暖化の防止につながるという仕組みとなる。
ごみに対する地域住民の理解や協力を得るにもインセンティブが欠かせない。マングローブ林REDD+と同じような仕組みが海洋ごみ回収にも適用されれば、意識が向上して、ごみ回収が進むかもしれない。
佐藤啓 商船三井インドネシア社長(JJC運輸グループ代表)