中国経済の日本化
中国経済の減速が著しい。今年の年初にはゼロ・コロナ対策終了後の力強い回復が期待されていたが、足下では不動産市況の悪化、若年層の失業率上昇、継続したデフレなどから経済成長率も予想比の下振れが続く。
これらの症状は外見上、バブル崩壊後の日本経済の相似形で、従って中国経済の日本化(ジャパナイゼーション)が進むのではないかとの議論も聞かれるようになった。これらの議論には、不動産バブル崩壊や人口動態の変化などの共通項に着目して日本経済が経験した失われた30年の二の舞になるのではとの悲観論もあれば、いやいや中国の不動産市場は90年代初頭の日本ほどは痛んでおらず、また個人消費など景気サイクルの底にあるものが今後回復してくれば成長を取り戻せるだろうという楽観論もある。
悲観論には、どちらかというと中長期での中国経済の行方に着目したものが多いようだ。中国経済は長らく続いた二桁成長が2010年代に入って明らかに下降トレンドに入ってきている。中進国の罠に陥らないためには、投資主導から消費主導への構造改革が必要と言われるが、家計消費の割合は国内総生産(GDP)の4割弱と低く、今後の急速な高齢化を展望すると、この部分の成長見通しは暗い。イノベーションによる生産性向上も構造改革を後押しする要素だが、足下での米欧企業の投資見合わせや政府によるテック系企業の活動制限はこれに逆行する流れだ。
一方の楽観論はより短期的な視点に基づく。例えば、現在の不動産業の不況は住宅中心で、政府がバランスシート調整のために不動産業者の救済をあえて見送っている面もあるので、いざとなれば公共投資や国営銀行を通じた支援による下支えが可能といった見方だ。また実際のところ今起こっている市況の悪化も都市やアセットクラスによってかなりバラツキがあるようだ。先日、あるインドネシアのビジネスオーナーからは、上海のサービスアパートに投資しているが需要も強いし価格も上がっているとの話も聞いた。対する90年代の日本のバブル崩壊では全面的な価格下落がより大規模に起こっていた。
これらの悲観論や楽観論は、それぞれが反対の見方というよりも、今後中国政府・当局がどう経済を舵取りしていくかについてのトレードオフを示していると見てとれる。つまり、短期的なショック回避を優先させて安易な景気対策を取ると、中長期的には構造改革が遅れて潜在成長率を抑え込んでしまう(そしてその逆も成り立つ)。
もっとも今の中国とかつての日本との最大の違いは、おそらくは米国との関係を中心とする国際政治における位置付けの違いであろう。日本も70〜80年代に日米貿易摩擦を経験したが、日本市場の開放や日本の製造業による米国現地生産により解決を見た。今の米中関係は米国による「関与」から「封じ込め」への外交政策の大転換を伴っており、経済関係好転への糸口は見えない。
インドネシアにとっても今や中国は貿易でも投資でも最大のパートナーとなった。過去5年間で中国からの直接投資および中国向けの輸出は共にそれぞれ2・5倍増加しており、これらはインドネシア経済の成長にも大きく貢献してきたと言えよう。次の5年間でこの関係がどうなっていくか。政治面はもとより成長ドライバーという観点でも今後の中国との関係は異なる意味合いを持ってくるのではないかと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)