脱炭素時代へ向けて
2015年のパリ協定参画以降、インドネシアでの脱炭素の議論は他国同様に盛り上がってきており、昨年バリで開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でもカーボンニュートラルは大きなテーマの一つとなった。政府は石炭火力発電所の早期閉鎖や再エネ(太陽光、水力、地熱等)の導入など大々的に方針を打ち出し、またJETP(Just Energy Transition Partnership)に代表されるように国際機関や日本をはじめとした各国政府もこぞってこの国の脱炭素をバックアップしていく旨を発表した。現在、インドネシアの電力源は石炭・ガス・石油の化石燃料が87%を占めており、太陽光や水力、地熱といった再エネは13%に過ぎない。政府はこの再エネ比率を2030年までに42%、2040年までに71%、2060年には100%を達成するとしている。もちろん太陽光発電には広大な土地と日照条件の問題が、水力発電や地熱発電の開発にはかなりの時間と資金がかかるため先行きは不透明だ。それら問題を踏まえると政府が考える脱炭素政策は「とりあえず走りながら考える」感が強いことは皆さまもご承知の通り。インドネシアの電力会社の幹部も「正直何が正しいのか我々もわからない」と心情を吐露している。容易に答えは出ない、いや最後まで答えは出ないのではないだろうか。カーボンニュートラルは膨大な資金を必要とするからである。ただ、この国がエネルギー政策の大きな転換期を迎えているのは確かだろう。
IHIはカーボンニュートラル推進に貢献することを経営方針の柱の一つとしており、インドネシアにおいても様々な取り組みを展開している。まず、2022年から国営電力PLNグループと共同で石炭火力発電所の代替燃料としてアンモニアやバイオマスを使う取り組みや、グリーン水素を製造し国内消費する検討も開始した。また、近い将来日本を始めアジア各国で大きな需要が見込まれるグリーンアンモニアを製造するべく国営肥料会社Pupuk Indonesia社と共同で事業化の検討も開始。Pertaminaとはメタネーション事業(CO2と水素を混ぜメタン製造する事業)の検討を開始、現地民間企業とはEFB(パーム椰子殻)からバイオマス燃料を製造する事業も検討開始している。一方、CO2排出の大きな原因である森林火災を防ぐため衛星データを活用した熱帯雨林管理事業を住友林業と開始している。今後何の事業が伸びて何がだめか、状況を見極めてよく思考していかなければならない。時代の変化への対応であり難しいが、後顧の憂いなきよう奮励しないといけない。
インドネシアは世界的に見ても本当に大きな可能性を秘めていると言われている。現在2億7000万人の平均年齢は未だ32歳、2030年にはロシア、ドイツ、ブラジルを抜いて国内総生産(GDP)世界第5位、50年までには日本を抜いて世界4位になろうとしている国だ。数字だけ見ると可能性に満ちた国に見える。その反面、厳しい規制、資金不足、教育・貧富の格差など解決しなければいけない問題・課題も無数といえるほど山積みであることは事実である。経済的にGDPが世界何位かなどに踊らされることなく、すべての国民がそれなりに豊かに幸せに暮らせるような国に進んでいくことを強く望みたい。そのためのインフラ整備や工業化推進,カーボンニュートラル実現へ向けてさらに貢献できれば幸いである。植松伸夫 IHIインドネシア事業開発拠点長(JJC機械グループ代表)