資源輸出規制

 この数週間ほど資源関連の輸出代金に関する新規制についての議論がヒートアップしている。同規制は資源関連企業に輸出から得られる資金の30%を最低3カ月間インドネシア国内に保有しておくことを義務付けるものだ。これまでも資源輸出関連の規制はあったが、今回は強制的に輸出代金の30%を国内の特別預金口座に入金させて留めおくことが定められており、今までの規制よりも踏み込んだ内容と言える。
 資源高の恩恵によりインドネシアの貿易黒字は歴史的に見てもかなりの高水準を記録してきた訳だが、その間、貿易黒字の伸びほどには、外貨準備高の伸びが大きくなかったとの見方もある。今回の規制強化も、特に足下では資源価格が低下傾向にあり、これを受けて貿易黒字幅が縮小する中、国としての対外支払能力を下支えすることが主目的と見られている。
 同規制の施行は1日からだが、例によってと言うべきか、詳細が未確定のままの部分も多い。まずそもそも資源輸出企業として該当するのがどの業種のどの企業なのかがなかなか決まらず、ようやく先週金曜日になって細則が出てきたところだ。これ以外にも実務面で未確定の部分が少なくなく、しばらくは手探りでの施行となりそうだ。
 もう一つの論点は、今回のような規制が資本の自由な移動を制限する、いわゆる資本規制と受け止められないかどうかだ。輸出代金を強制的に保有させるような規制については、類似のアイディアが2010年ごろから議論されてきており、その都度、海外投資家からのネガティブな反応の可能性を懸念して、踏み込んだ規制導入には至らなかった経緯にある。今回の規制発表に際しては、かなり早い段階から、財務省より資本規制には当たらないとのコメントが出ているが、これも内外の反応を意識したものと言える。なお、他のアジア諸国を見てみるとタイ、マレーシア、インドといった国々も、程度や内容の差はあれ類似の規制を導入しており、インドネシアが特別に厳しい資本規制を入れた、ということにはならないと考えられる。
 それぞれの国が自国の経済・金融政策を行ううえで、どの部分の規制を厳しめにして、どの部分で自由を認めていくかについては様々なバリエーションがあるだろう。ただ金融・為替関連の規制については、こっちを立てるとこっちが立たず、というようなトレードオフの関係性があることに留意する必要がある。例えば「自由な資本移動」、「安定した為替相場」、「金融政策の独立性」の3つは、全てが同時に達成されれば言うことなしであるが、どれか一つは犠牲にしなくてはならないというのがセオリーになっている(「国際金融のトリレンマ」と呼ばれている)。
 日本をはじめとする多くの先進国は、資本の自由と金融政策の独立性を保持しているが、変動相場性を受け入れ、時に不安定な為替相場も許容している。香港や欧州連合(EU)加盟国は為替相場の安定と自由な資本移動を手に入れる代わりに、独自の金融政策を放棄せざるを得ない。
 この枠組みで見てみると、インドネシアの今回の規制は、資本移動を若干制限することで、(外貨準備を補強することを通じて)為替相場の安定を実現しようとする試みと捉えることができよう。そしてこれがどれだけ効力を発揮するか。ルピア為替が今後も安定して推移するかどうかが、そのリトマス試験紙になってくると考えられる。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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