ドルの利上げは続くか
先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)の定例会合で、ドルの政策金利の据え置きが決まった。実に15カ月間に渡って連続10回という、歴史的にも前例がない利上げラッシュも、少なくともいったんは一時停止となった訳だ。米国のインフレ率が一定程度減速する中、今回のこの決定自体はほぼ市場参加者の想定通りであった。ただ同時に公表されたFOMC参加者(米国の中央銀行に相当するFRBの理事7人と全米の地区連銀総裁5人からなる)による経済・金利予測において、大半の参加者から年内にあと2回の追加利上げが妥当との見方が示されことはサプライズであった。
このFOMC参加者による経済・金利予測は、年8回ある定例会合のうち、四半期末に開催される会合で更新される。予測は国内総生産(GDP)成長率やインフレ率、失業率といったマクロ経済指標の見通しと併せて、向こう2〜3年の政策金利の水準見通しが示される。毎回、各参加者が適正と考える今後の政策金利水準をひとつずつの点(ドット)で示した散布図が公表され、これは通称「ドット・プロット」と呼ばれている。今回のドット・プロットを前回3月分と比較すると、今年の年末の政策金利予想値が概ね0・5%分だけ引き上がっている(0・25%という最小単位の利上げ幅2回分)。つまり大半のFOMC参加者が、過去3カ月の間に、より高い金利水準が必要だと認識するに至ったということになる。
これに対して市場参加者からはさまざまな反応が出てきたが、多くはやや訝しがるトーンが強かったとの印象だ。特に「そもそもより高い金利水準が必要だと思っているのに、なぜ今回は利上げを見送ったのか」という、ある意味素朴な疑問は、会合後の記者会見でも質問が出たポイントだ。これに対するパウエルFRB議長の回答は、到達すべき金利水準とそこに到達するペースは別の議論であり、到達すべき金利水準に近づくにつれて利上げを減速するのは理にかなっている、という旨の説明で、これはこれで解らなくもない。
やや禅問答のように聞こえる感はあるが、さまざまな要素を考慮して決定する金融政策は、すべてロジックで説明をつけるというより、アート的な要素も無視し得ない面がある。ただ今の状況で一つ言えることは、今回のFOMC会合後の市場の反応が非常に鈍かったことだ。ドルの金利先物のプライスを見ると、年内1回分の利上げさえもまだ完全には織り込んでいない。つまり市場と通貨当局の見方にかなりギャップが残っている状況だ。
今後のインドネシアの経済、通貨にはどんな影響が予想されるであろうか。もし年内にドルの利上げが2回あるとすると、ドルの政策金利は今のルピアの政策金利(5・75%)とほぼ同水準となる。つまり単純化すると、よりリスクの低いドル資産がルピア資産とほぼ同じ利回りで手に入るということになる。もちろん為替レートは貿易収支などの実需によって動くのが基本だが、それでも投資家のポートフォリオがドルにシフトしやすくなると、ドル買い・ルピア売りの動きを加速させることになる。もちろんこれはルピア以外の通貨にも当てはまる。これから先の数カ月間は、多くの通貨にとって、ドルの利上げ観測により従来以上に為替レートの変動が高まる可能性がある、と見て良いのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)