消費関連指標

 今年のレバラン(断食月明け大祭)は祝日の追加もあって久々の大型連休となったが、人々の消費活動も活発だったようだ。個人消費の推移を示す基礎的な指標である小売売上高指数は、コロナ以降、多少のアップダウンはあるものの改善トレンドを示してきたが、4月は前月比で12%の大幅増となった。レバラン休暇にあわせた人の移動や観光も活発だったようで、帰省期間中の交通量は前年対比で5%以上の増加、また一人当たりの観光関連支出は当局予想を4割程度も上回った。自動車などの耐久消費財は営業日数が少ない分、売上低下を見たが、これもどちらかと言うと一過性の要因と見る向きが大勢だ。
 インドネシア経済において個人消費の位置付けは大きい。国内総生産(GDP)に占める割合は50%を超えており、他国との比較でも相応に高い水準だ。資源輸出がこの国の経済成長の血流の源になっているのだとすれば、個人消費はその血液を体全体に行き渡らせる血管の役割を担っていると言える。
 インドネシアの個人消費支出自体は堅調に推移していると言えるが、タイやマレーシアなど他の東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も、多少の波高性はあるものの、概ねコロナ後の回復トレンドを維持していて、インドネシアのみが特別という訳ではないようだ。ただ、消費関連の指標で市場関係者がフォローしているもう一つの指標、「消費者信頼感指数」を見ると、インドネシアの高水準ぶりが目立つ。この指数は、インドネシアにおいては、毎月、中央銀行が国内18都市の約4600世帯を対象に、所得や雇用といったような項目について現状及び6カ月後の見通しについて聞き取り調査を実施し、その結果を指数化しているものだ。指数が100を上回ると消費者心理が楽観的、下回ると悲観的であることを示す。
 インドネシアではコロナ禍の影響が高まった2020年に同指標が急落し100を割り込んだが、21年10月に100以上を回復(以降19カ月連続で100超)、足元ではコロナ前と同水準の120超に達している。ASEAN他国の同指数を見ると(計測手法の多少の差異もあり単純比較に難がなくはないものの)、タイは足下では急速に改善しているがコロナ前の水準を回復しておらず、マレーシアは楽観圏と悲観圏を行ったり来たりしている。つまり両国ともインドネシアほどの一貫した高い消費マインドは観測されていないということだ。
 これを見て多くの人がまっさきに思い当たるのが、インドネシアの楽観的な国民性のせいではないかということだろう。その可能性が高いようにも感じるが、一方で消費性向や貯蓄性向の国ごとの差異については様々な研究が行われているものの、単純に一つの要素で説明しうる訳ではないようだ。例えば、日本の過去の消費者信頼感指数を紐解くと、1990年代初頭辺りまで相応に高い水準であったものが、その後アップダウンを繰り返しながらも水準自体がジリジリと引き下がって今に至っている。
 成長が進んである程度のインフレ率がある経済においては、将来予想に楽観的になり、借金をしてでも消費をする行動が後押しされるだろうし(インフレ下では貨幣価値の低下により実質的な返済負担が軽くなるので、借金をするメリットが高まる)、逆に低成長でデフレ下では逆のことが起こるという面がある。
 経済成長の順回転に支えられたポジティブな消費センチメントが、実態を伴って力強い個人消費を生み出し続けることができるかどうか、今年の消費関連指標はインドネシア経済を見る上での大事なメルクマールになるのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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