低成長化する世界経済

 国際通貨基金(IMF)は四半期に一回、世界経済の見通しを更新している。同じタイミングで主要地域・国別の経済成長率予測も併せて更新される。その最新版が先週11日に発表されたが、報告書のタイトルは「Rocky Recovery(回復への険しい道のり)」。コロナやロシアによるウクライナ侵攻の影響からの回復は進むが、その道のりはインフレとその後遺症(金融不安や景気後退)を伴って決して平坦では無いとの示唆だ。昨年11月のG20サミットのキャッチフレーズが「Recover Together, Recover Stronger(共に力強く回復しよう)」であったことを思い出すと、足元の状況を受け、それとは真逆のトーンのタイトルが敢えて選ばれたとも思える。
 今回更新された世界経済の成長率見通しは、今年が2・8%、来年が3・0%とそれぞれ前回1月の予測値から0・1ポイントの低下で、これ自体は大きな変化では無い(この予測値は金融システム不安がこれ以上悪化しないとのシナリオに基づく)。今回より目を引いたのは、今後5年間の平均成長率見通しを1990年以降で最も低い3・0%とした点だ。この水準は過去20年間の平均成長率3・8%を大きく下回る。その背景として、地政学リスクの高まりによる世界経済の分断と一部新興国経済の成長鈍化を挙げる。
 世界経済が低成長化しているのではないかとの議論は以前よりなされていたが、今後5年間という時間軸で見た場合、欧米経済がインフレの足かせと金融引締の副作用で景気後退を余儀なくされること、中国経済が米国向け輸出の低下や人口動態の変化、経済の成熟化によりかつてほどの成長ドライバーとはなり得なくなっている現状を考えると、低成長化がメインシナリオとなるとの予測は納得がいく。IMFの報告書では、金融システム不安が深刻化するリスク・シナリオ(現時点では15%の発生確率)が実現してしまうと、先進国経済の成長率が短期的には1%割れとなる可能性も示しており、そうなってくると更なる低成長化が進むことも考えられる。
 インドネシアはそんな中で気を吐く存在と言えるかもしれない。今回のIMFの予測でも、インドネシア経済の成長率見通しは今年5・0%と前回1月予測より0・2ポイント引き上げられた(来年の成長予測は5・1%)。ただこれから先5年間ということになると、世界経済が低成長化する中では、当然その影響を受けると考えておくべきだろう。インドネシアの国内総生産(GDP)に占める輸出比率は2割強程度と、新興国の中でも輸出依存度が高いという訳では無いが、輸出の中身を見ると国際市況の影響を受ける度合いが非常に高く、これらは国内経済への波及効果も大きい。
 ビジネスの観点で言うと、低成長化の時代は発想の転換を迫る面もあろう。グローバル企業の戦略として成長国に経営資源を張るというのが確立されたアプローチとなってきたが、低成長化の下では、それぞれのマーケットや事業領域で本質的な付加価値を向上させていくことに焦点をシフトしていく必要性が高まるかもしれない。またターゲットとするマーケットを絞り込むべきかどうかといった判断にも影響してくるかもしれない。こういった変化は急には進まないのが世の常ではあるが、少なくとも意識はしておくことが重要なのではないかと思う。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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