イスラムを身近に カンプンのモスク探訪 安宿街のジャクサ通り
ジャカルタ中心部にあるジャクサ通りは車やオートバイがひっきりなしに通り、バーやカフェ、レストラン、ホテルが立ち並び、外国人バックパッカーに人気の安宿街。外国人観光客が昼夜問わず集まるが、一つ道を外れると、まったく異なった姿が見られる。
ジャクサ通りの中ほどで古本屋を目印にクボン・シリ・バラット通りを西に入る。外国人観光客の数がぐっと減り、代わりに地元の子どもたちがバドミントンに興じるなど、カンプン(村落)に住む庶民の日常生活の風景が広がってくる。すぐに、緑の屋根の建物があった。ゴイル・ジャミ・モスクだ。
白いレンガが積み重なり、屋根回りは黄緑のトタン板で囲まれた1階建ての建物。一見すると民家のようだが、スピーカーが取り付けられた白い塔(ミナレット)が1本だけ空に突き出ていることで、モスクとしての存在を訴えているようだ。
道路側には礼拝前に体を清めるための水場があり、手足を水で湿らせた人々が中に入っていく。中は赤い敷物が敷き詰められており、小さいながらもカーテンで仕切られた女性用の礼拝スペースも存在する。
朝には10人程度、昼から夜には50人以上が礼拝を行う。いつからあるのか分からないが、少なくとも数十年前からあるという。
ジャクサ通りの近くには、このほかに2つのモスクを発見し、インドネシアが世界最大のムスリムを抱える国であることを身近に実感する。
しかし、道行く外国人観光客は街中のモスクに興味を示さない。「外国人ムスリムは来るけど、ムスリムじゃない外国人が来たのは見たことないよ」と礼拝に訪れていたトリダヤットさん(53)は語る。
ジャカルタには1984年に完成したイスティクラル・モスクが東南アジア最大と名高く、観光名所となっている。とはいえ、わざわざイスティクラルを訪れなくとも、モスクは街の至るところにある。一言断ってからのぞいてみると、イスラムを実践する地域住民の姿を目にすることができる。
一方、多様な民族が一つの国に暮らし、イスラムを国教としていないインドネシアでは、食事の前に十字を切る老人、買い物終了後に、両手を胸の前で合わせてあいさつする店員など、市井の暮らしの中に多くの民族、宗教が息づいていることを感じることが多い。
写真を撮らせてもらったお礼に「トゥリマカシ」というと「ドウイタシマシテ」と笑いながら日本語で返ってくるのを聞いて、その思いを強めた。(京都大学大学院文学研究科・地理学専修修士2回生・林良彦)