利上げを読み解く

 先月22日、インドネシア中銀が遂に政策金利の引き上げを決断した。3・5%から3・75%への引き上げで、上昇幅としては0・25%と控えめではあったが、事前の市場予想は金利据え置きが大勢であったこともあり、サプライズをもって受けとめられたと言えよう(ブルームバーグの事前調査ではエコノミスト31人中24人が金利据え置きを予想していた)。
 利上げ決定前の状況を振り返ると、コア・インフレ率は中銀が予め設定した許容レンジ2〜4%に十分収まる水準(7月実績で2・86%)であったし、ルピア為替も極めて安定して推移しており、前回・前々回の政策決定会合時と比べても、さほど大きな変化は起きていないようにも見えた(しかるに多くの市場参加者が金利据え置きを予想した)。しかし、直近の1カ月の間にインドネシア中銀の金融政策を取り巻く環境には重要な変化が進展していたと読むべきであったろう。
 まず、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする欧米各国中銀のスタンスが、少なくとも市場の期待を上回って、インフレ抑制優先であることが明らかになってきたことである。7月以降、米国ではこれまでの急ピッチの利上げが奏功してインフレ鎮静化(及び利下げへの転換)が見えてきたのではとの楽観論も浮上していたが、FRBの認識はむしろその逆で、その後、複数のFRB高官からインフレ抑制はまだ目処が立っておらず、従って利上げについてもまだ終わりが見えないことを示唆するメッセージが立て続けに出てきた。先月開催されたジャクソンホール会議(毎年8月に各国中銀総裁やエコノミストが集うシンポジウム)でのFRBパウエル議長による時期尚早の金融緩和は厳に避けるべき旨の発言はこれを明確に裏付ける。
 一方、インドネシア国内サイドでも変化が見られた。8月16日に発表された来年度の国家予算案が抑制的な内容で(財政赤字をGDP比で3%以下に抑えるのは実に4年ぶり)、トレンドとしては、これまでのコロナ対応優先の拡大財政路線を改め、財政健全性に舵を切ったものとなったことである。また、燃料補助金予算についても22年予算見通し比33%減と抑制的な水準が示され、今後の補助金削減にも道筋をつけるかたちとなった。現政権がコロナ後の景気回復だけを闇雲に追うのではなく、今後は財政正常化に比重を移すとのメッセージであると理解できる。
 ペリー・ワルジヨ中銀総裁は、利上げ決定に伴う声明で、グローバル経済の予想以上の減速とスタグフレーション・リスクの高まりに言及しつつ、今回の利上げが今後見込まれるインドネシア国内のインフレ率上昇に対する先行的な予防措置であることを強調した。また今回の利上げ決定は、タイミング的に燃料補助金の削減に呼応しており、政府による財政政策と中銀による金融政策が、恐らくはかなり意識的に連携するかたちで決定されたであろうという点でも興味深い。
 7月のこのコラムで中銀が敢えて利上げの是非についてあいまいさを維持しているのではと指摘したが、今回の意思決定ではインフレ抑制重視のスタンスを一定程度の明確さを持って示したものと評価できよう。そして、これからの注目ポイントは、補助金削減とインフレ率、それを受けての政策金利引き上げのペース、といった点に移ってくることになろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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