閑静な住宅街に現代美術の世界 バスキ・アブドゥラ博物館 南ジャカルタ
インドネシアの文化芸術といえば伝統的なろうけつ染めの「バティック」や影絵芝居の「ワヤン」などが真っ先に思い浮かびます。色柄も豊かで美しい「バティック」は手軽に購入できる小物や衣料品などで私たちの生活の最も近いところにありますし、動画サイトなどを通じて影絵芝居「ワヤン」の公演も家に居ながら楽しむことができます。その一方で、あまり知られていないのが「伝統的」の反対の「現代的」なインドネシアの芸術。今回のおすすめ観光情報は南ジャカルタの閑静な住宅街に位置する現代美術の博物館、バスキ・アブドゥラ博物館を紹介します。
バスキ・アブドゥラ氏はインドネシアを代表する洋画の巨匠です。第一次世界大戦開戦直後の1915年、中部ジャワのソロに芸術家一家の元で誕生しました。イスラム同盟の結成やインドネシア共産党の成立など民族主義運動が活発になっていた少年時代のインドネシア。そのような激動の時代に若くして芸術家として開花したバスキ・アブドゥラ氏はイスラム教からローマ・カトリックへ改宗したことでも知られています。
博物館は故人の自宅が改装され2001年に開館しました。人物画、風景画、抽象画などの絵画や、銃や刃物といった趣味のコレクション、衣類、時計、アクセサリーなどの遺品のほか、寝室など家屋の一部もそのまま保存、展示されています。
バスキ・アブドゥラ氏が描く写実的な肖像画には今にも動き出しそうなリアリティがあり、ひとりひとりの表情から人柄までもが伝わるような血が通った暖かさが感じられます。少女や踊り子などの身近なモデルを描いた作品のほか、インドネシア国家英雄でジャワ戦争指導者のディポネゴロ、マリア像、スハルト大統領などを描く度に名声が高まって行ったのだそうです。
博物館の2階で、見覚えのある女性が笑みを浮かべていました。「DEWI SOEKARNO」と書かれた札、スカルノ元大統領夫人のデヴィ夫人です。これまで写真や本などでは見た事があったデヴィ夫人の若かりし頃。バスキ・アブドゥラ氏の描く肖像画の透き通る白い肌と吸い込まれるほどの美しさに日本人として自慢したい気持ちになりました。
コレクションコーナーで目を引いたのは日本刀やライフル銃などの武器。日本軍政期、バスキ・アブドゥラ氏は日本政府によって開設された啓民文化指導所で絵画を教えていたということで、軍事や政治といった世界とは離れた文化芸術の分野で日本人の芸術家や文化人たちとも交流や絆があったのではないかと想像できます。そのせいか、ほかの博物館で見る冷酷で残忍なイメージではなく、フォルムやデザインが美しい物が集められているように思えました。
調べてみると奥が深いインドネシアの近代絵画の世界。バスキ・アブドゥラ氏の作品は国立博物館や大統領官邸など各所に貯蔵されているとのことです。また、この博物館では特設展やコンペ、ワークショップなども開催しているとのことで皆さまもぜひ芸術鑑賞や文化体験に足を運んでみてはいかがでしょうか。(日本旅行インドネシア 水柿その子 写真も)
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