老若男女が楽器練習 日曜昼の青空教室 メンテンのスロパティ公園
中央ジャカルタ・メンテンにあるスロパティ公園。大きな木々が茂り、その陰が涼しい空間を作る。大都会のなかにある市民の憩いの場で、毎週日曜日にクラシックの音楽教室が開かれている。3日午後1時、老若男女約50人が4組に分かれ、バイオリンやウクレレ、チェロなどを演奏していた。クラシックに不似合いな、カラフルなブラスチックの椅子以外はさながらコンサートのようだ。
教室の名前は「タマン・スロパティ・チャンベル」。2007年に音楽家アグス・テヌスティさん(42)が創立した。アグスさんは欧米で、インドネシアの国民音楽クロンチョンのコンサートを行ったこともあるという。
アグスさんは「モールでぶらぶらするだけだった休日を楽しもうと音楽教室を開いた」と語る。目指すのは「スズキ・メソッド」。音楽教育家の鈴木鎮一氏が創始した繰り返し聴き、練習することを重視する教育方法だ。
アグスさんは毎週生徒たちに改善点をアドバイス、宿題を課す。生徒は1年に1度、中央ジャカルタ・パサール・バルのジャカルタ芸術劇場(GKJ)で発表会を行う。生徒たちの表情は7月の発表会に向けて真剣そのものだ。
午後2時、全体練習が終わるとそれぞれ会話を楽しんだり、公園で遊んだり、セッションをする人もいる。生徒の1人、ティアラさん(10)はアグスさんらの伴奏でクロンチョンの歌を練習し始めた。最初は緊張のせいか上手く声が出なかったが、徐々に10歳とは思えないような、心地よい美声を聞かせる。
2年前から教室に参加。最初はバイオリンを弾くだけだったが、クロンチョンを演奏するアグスさんを見て歌いたくなったという。「毎晩、母と一緒にクロンチョンを歌っている」とティアラさん。
日本人の参加者もいる。国際協力機構(JICA)専門家として労働移住省で働く石田茂雄さんは、1年以上教室に通い、子どもたちにバイオリンを教えている。クラシック音楽を専門とする日本人同好会を探していたとき、ここの音楽教室のうわさを聞きつけたという。
石田さんは「子どもたちに音楽を教える代わりに、インドネシア語を教えてもらっている」と語る。談笑している間も、石田さんとセッションしたいと人々がやってくる。音楽は共通言語。合奏を通じて人々とのコミュニケーションが深まっていく。(堀之内健史、写真も)