祖国愛や宗教寛容性問う 司教の静かな独立戦争 映画「スギヤ」来月7日封切り 日本軍政期も描写
日本軍政期から対オランダ独立戦争期の一九四〇―五〇年を舞台に、インドネシア人初の司教としてインドネシア国家建設に身を投じた英雄スギヤプラナタ氏を描くインドネシア映画「Soegija(スギヤ)」が完成した。インドネシアで少数派のカトリック教徒が宗教や民族の違いを乗り越え、人道支援に献身する様子を描写。日本兵やオランダ兵の暴力を描きながらも、敵味方に通じる人間愛で包み込む。インドネシアを代表する映画監督ガリン・ヌグロホ氏が、政府の指導力不足や宗教対立など、インドネシアが現在直面する問題に一石を投じる意欲作だ。
日本軍の進軍を伝えるジャワ語のラジオ放送。交易都市スマランに進駐した日本軍がオランダ人宣教師やカトリック教徒らを次々と拘束していく中、スギヤプラナタ司教は「バチカンは天皇陛下と特別協定を結んでいる」として、教会引き渡しを拒否する。
「一〇〇%カトリック、一〇〇%インドネシア人」。当時、「侵略者の宗教」とみなされたキリスト教を信仰しながら、オランダに加担せず、インドネシアの独立を固守する姿勢を貫く。村落で布教を続けながら、食糧難など庶民の生活ぶりを目の当たりにする司教を淡々と描く。
妻子を日本に残し、進駐前からスマランに滞在する日本兵、看護師のジャワ人女性に恋する写真家のオランダ人。教会で礼拝中の女性に銃を突き付ける場面などもあるが、日本兵やオランダ兵が地元の子どもを助けるシーンなども盛り込む。インドネシア映画に多数出演してきた俳優・鈴木伸幸氏が、強面だが人間味のある日本兵を熱演している。
制作資金は、カトリック団体やコンパス・グラメディア・グループのヤコブ・ウタマ会長、プルノモ・ユスギアントロ国防相らから寄付金を募り、計百二十億ルピア(約一億円)を超えた。スマラン、ジョクジャカルタ近郊などでロケを敢行し、エキストラを含め約二千八百人が出演。日本や欧州など、海外の映画祭常連のガリン監督にとって最高額を投じた作品になったという。
■ムスリムが司教好演
二十四日、南ジャカルタ・スティアブディの複合映画館「21」で試写会と記者会見が行われ、ガリン監督ら制作スタッフ、出演俳優のほか、ガリン監督と約二十年にわたって交友がある国際交流基金ジャカルタ日本文化センターの小川忠所長らが出席した。
ガリン監督は「作品の舞台は戦時中だが、現在、インドネシアが直面している問題を映し出した」と語る。政府の指導力不足や続発する少数派襲撃事件。多民族国家インドネシアの国是「多様性の中の統一」が脅かされているとの危機感がある。
司教を演じたのは、ムスリムのニルワン・デワント氏。作家・批評家、文化施設「コムニタス・サリハラ」運営者の顔を持つ文化人で、演技は初挑戦という。「現地の司教や現地の人々から多くを学んだ。ムスリムやキリスト教徒といった宗教の違いを乗り越え、インドネシア建国への愛国心を表現した」と語った。
映画は来月七日、各地の複合映画館チェーン「XXI」で封切られる。南ジャカルタのプラザ・スナヤンなどでは英語字幕付きを予定。
◇スギヤプラナタ氏(1896―1963)
中部ジャワ州ソロ生まれ。同州スマランを拠点に布教活動を開始、1940年、バチカンからプリブミ(土着のインドネシア人)初の司教に任命される。インドネシア独立宣言後の45年10月、日本軍と連合軍を仲介。オランダ軍がジョクジャカルタを占拠すると、ジョクジャカルタ近郊に移転し、ジョクジャカルタのスルタン(王)のハメンクブウォノ九世(副大統領)を支援。シャフリル初代首相らを通じて停戦を呼び掛けるなど「沈黙外交」を主張した。ジャワ語で聖餐式を行い、ガムランやワヤンなどジャワの芸能を布教活動に取り入れるなど、宗教・文化のあつれきを回避することに尽力。スカルノ初代大統領が63年、国家英雄に認定した。