また会いたい、土産商 コロナ終息に思いはせ バリ島     

 2月、初めてバリ島に行った。まだ新型コロナウイルスが今ほど猛威を振るっていない頃だ。クタビーチで土産商たちに「カモられた」が、楽しかった思い出がある。「新型コロナが終息したら、また行きたい」。そう思わずにはいられない。

 砂浜を歩いている時だった。「あなた、これ買う!」。ヒジャブを被った年配の女性から突然、日本語が飛んで来た。驚いてつい足を止めてしまう。気付けば話し込んでいた。
 女性は自らを「なんちゃって・かおりちゃん」と名乗った。長年クタビーチで観光客を相手に、ブレスレットなどのお土産を売っているらしい。普段装飾品を付けないので、買うのをためらっていると、「出川さんはいっぱい買ってくれたよ!」。思わぬ名前が出てきた。
 日本の芸能人、出川哲朗さんのことだった。テレビ番組のロケでバリに来た出川さんと遭遇、番組に出演したという。「本当?」と疑ってみると、かおりちゃんは財布から少しくたびれた、写真らしき紙を2枚取り出した。テレビ番組の出演シーンの画像を、写真用の紙に印刷していたのだ。
 確かに出川さんと話している若いかおりちゃんが写っている。何年前かは定かでないが、長年、大切に持っているのだろう。少し感動して、「じゃあ1個くらい買うか」と思ってしまった。我ながら「ちょろい」。1個いくらか聞くと、「任せる」と言われた。
 「任せる?」。困惑する私に、かおりちゃんが一言。「出川さんは1個10万ルピアで買ってくれたよ」。本当か嘘かはわからないが、ブレスレットの品質に対して高すぎるのは確かだった。しかし再三にわたり「出川さん価格」を示されると、話ができて楽しかったし、従ってもいいような気になってくる。なるほど、あの写真は商売道具だったのか。気付いた時には遅かった。
 結局、3個30万ルピアで購入した。するとかおりちゃんは「お礼」といってもう1個くれた。そんなにいらなかった。
 買い物が終わり、ふと周りを見ると、同じように日本語を話せる土産売り、サーフボード貸し出し屋などが集まっていた。いわゆる「カモ」だと思われていたようだ。
 彼らによると、昔に比べ、最近旅行に来る「若い日本人」は土産物を買ってくれないらしい。「日本人が良い客だと思ったので、一生懸命覚えてきた言葉が、最近あんまりお金につながらない」とぼやく人もいた。
 確かに20代の自分は、旅先で見知らぬ人に声を掛けられたら、面倒くさがって避けていくことが多い。しかし今回思ったのは、彼らと話すのは純粋に楽しいのだ。だからつい、必要のないブレスレットも買ってしまった。
 思えば、日本人観光客と楽しくコミュニケーションを取り、土産を買ってもらうために腕を磨いてきた人たちだ。ある種のプロフェッショナルとも言えるかもしれない。もちろん、身を守るために気をつけなければいけない場合はあるが。
 新型コロナウイルスの感染拡大は、彼らの生活に少なからず影響を与えている。自分も今はバリに飛べる状況ではないが、終息したら、また会いに行きたい。そう思わせてくれている。
 ビーチを歩いているとき、日本語が飛んできたら、少し足を止めて話してみるのも良いかもしれない。無論、安全にはくれぐれもご注意を。(大野航太郎、写真も)

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