太古の人の魂に触れる 南東スラウェシ州ムナ島 謎の洞窟壁画
旅は人生。だから、ときには思い切った行動や決断が必要です。今すぐ行かなければ! 一目見るだけでもいい! 激しい衝動にかき立てられ、気が付いたらリュックサックを背負っていた……。この第一歩が新しい人生の始まりになるかも知れません。そんな人類の本能を揺さぶる地、南東スラウェシ州ムナ島。今回のおすすめ観光情報は日本語メディアではほとんど紹介されたことがない【ムナ島シリーズ(上)】と称し、古代壁画の洞窟「リアンコボリ」を紹介します。
「K」の形をしたスラウェシ島の右下端っこに浮かぶムナ島、面積は山形県ほどです。スラウェシ島や周囲の島々との主要アクセスはフェリーなどの海路で、民家とそう変わらない大きさの空港ターミナルは現在プロペラ機が1日1往復するのみ。その可愛らしい空港も地元の人いわく「できたのは5年前くらいだったかな」という長い間外部の人の往来が容易ではなかった辺境です。
このムナ島に、既存の考古学や人類史の常識を覆すかも知れない、謎深い壁画が描かれた洞窟が幾つも現存しています。ムナ語でその名の通り「描かれた洞窟」という意味の「リアンコボリ」はその代表格。大小様々な洞窟画が到底太古のものとは信じ難いほど色鮮やかに手つかずのまま残っているのです。
世界各国で発見されている同じような赤茶色の洞窟壁画は赤土で描かれているそうなのですが、ここもそうなのか、そもそも大体いつの時代の物なのか、資料が無さ過ぎてわかりません。こうした謎を解明すべく調査研究がインドネシアや日本の専門家によって少しずつ進められている状況なのだそうです。
「うぉ~!」思わず大声をあげてしまいました。躍動感あふれる四つ足動物、牛なのか鹿なのか。刃物を片手にそれを追う人々。動物に乗った人、首をかられた人もいます。岩を上って近付きひとつずつ見ていくと、船、漁師、クモかタコのような生物、太陽や木と思われる素晴らしい描写も。どの絵も見れば見るほど愛しく、洞窟全体に広がる空気感とスケールも写真では伝えられないほど壮大です。
「大昔の人類は何を思ってここに集い、絵を描いたのだろう」「彼らもここでこうして夕暮れを迎えたのかな」。長い時の流れに取り残されたまま息づく古代人の魂。今にも動き出しそうな動物たちの生命感。もう、ささいな事などどうでも良くなる圧倒的エネルギーに包まれながら、自分の中の人類・生命のルーツに漠然と向き合う地球の穴、強烈なパワースポット。
万一のために乗り継ぎ時間に余裕を見て、とまだ真っ暗なうちに空港に向かい、ジャカルタ発の飛行機からプロペラ機へ乗り継ぎ、ようやくたどり着いたときには日も暮れかけ……。リアンコボリはそれだけの移動時間と距離を飛び越えても訪問するだけの価値があります。日本から行く場合はさらに遠くなりますから、インドネシアにいる間に一度は……というより、今すぐにでもリュックサックを背負って、皆様もぜひ今後の人生が変わるかも知れない旅の第一歩を踏み出してみてください。(日本旅行インドネシア、水柿その子、写真・イラストも)(つづく)