植民地の記憶、製糖工場 東ジャワ州マディウン 鉄道を楽しむ旅へ
物々しい緊迫感に襲われたジャカルタ。大統領選挙の波紋は平和と幸福に包まれるはずの断食期間中のインドネシアに尋常ではない緊張をもたらしました。インドネシアの人たちが持つ政権への希望、願望。その根底には私たちには想像もできない長い植民地時代の経験も関係しているのかも知れません。そんな思いを胸に、今回のおすすめ観光情報は東ジャワ州マディウンと周辺の製糖工場について紹介します。
マディウンはインドネシアでは有名な鉄道の街。空港がないこの街の表玄関はもちろん鉄道のマディウン駅、東ジャワきっての規模と歴史を誇る由緒のある駅です。当然のことながら実際に鉄臭いわけではないのですが、プラットホーム先端に立って見る、車両庫から顔をのぞかせる機関車の数々には独特の趣があり鉄道ファンの心をドキドキさせます。
インドネシアの国営鉄道車両メーカーであるインダストリー・クレタ・アピ(INKA)や、高給専門職としても人気の職業のひとつである国鉄や大量高速鉄道(MRT)の運転士、整備士など、憧れの鉄道マンへの登竜門となる鉄道学校もここマディウンに所在しています。インドネシア国内の鉄道では日本から輸入されている中古車両や開通ホヤホヤのジャカルタのMRTが注目を浴びていますが、ジャカルタ首都圏を離れてインドネシア国内全域ではINKA製の車両が主流で、バングラデシュなど海外へも輸出されています。駅から一歩外に出てみてもマディウンの街中には鉄道の街をグイグイとアピールする施設がいっぱいです。駅の横には古い機関車のモニュメント、駅の裏手にはすぐにINKAの工場と、四方八方鉄道尽くしなのですから。
マディウンがこうした鉄道の街になった背景には、この東ジャワ州一帯の広大なサトウキビプランテーションと切っても切り離せない関係があるのだろうことは、駅のそばからすぐに見てとることができます。その証拠に車で数分走っただけでも「PG」(Pabrik Gula/製糖工場)の看板と工場が次々と現れてくるのです。
そのうちのひとつPGプルウォダディ(PG Poerwodadie)は現在でも稼働している現役の製糖工場です。敷地の一部は子どもたちや地元住民が学習や観光に訪れることができる、いわゆる「アグロ・ツーリズム」の施設として開放されている、公園風になっています。古い機関車や廃墟と化した駅舎、無造作とも思えるサトウキビキャリッジが草むらに置かれている様子は、ちょっとしたアトラクション。訪れた日には人目につかない機関車の運転席で、肩を寄り添う若者カップルの姿も。
高層ビルがタケノコのごとくニョキニョキと建設され、瞬く間に近代巨大都市へと大発展した今のジャカルタだけを見ると、インドネシアという国の歴史やそれを支えてきた産業を忘れがちになります。ですが、広大なサトウキビ畑を背景に敷き詰められた鉄のレールは、さながらインドネシアの過去と現在、現在と未来をつなげる記録の線路。甘い甘いサトウキビを乗せてここで黙々と淡々と活躍し続けた機関車たちが、いつしか人知れず消えてしまうことのないよう見守り応援していきたいものです。皆様、ぜひ一緒に鉄道を楽しむ旅に出掛けましょう。(日本旅行インドネシア、水柿その子、写真・イラストも)
◇日本旅行インドネシア
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