「ここから川をきれいに」 バンドン県チサンティ湖 チタルム川の水源
長年汚染が問題視され、政府がことし、本格的な浄化に着手した西ジャワ州のチタルム川。全長269キロメートルの川は「世界一汚い川」と呼ばれてきたが、その源流には美しい湖が広がり、地元の人たちが観光に訪れている。「チタルム川をここからきれいに」と美化に取り組み、環境に配慮した観光地化を目指す。
バンドン市中心部から車で2時間強。チサンティ湖はバンドン県クルタサリ郡のワヤン山のふもとにある。辺りに観光できるような場所は正直ないが、道中、美しい棚田の景色を望むことができる。
標高1800メートルの高地にある湖周辺は、曇っていると長袖でも寒いほど。入場料1万ルピアを支払う。入り口で出会った陸軍のカルニタさんに「ここに来たら、まずは体を温めないと」と、敷地内に唯一出ていた屋台でバッソ(肉団子)のスープを勧められた。
5ヘクタールの広大な湖は、周囲をぐるりと歩いて回ることができる。特にアトラクションがあるわけでないが、緑に囲まれ、自然を目いっぱい楽しみながらウオーキングするにはもってこいの場所だ。
訪れたのは平日だが、学校が休みに入ったこともあり、小さな子どもから大人までが散歩しながら楽しんでいた。「チタルム0キロ地点」のシンボル前ではハンマド・ハニフさん(14)ら中学生4人組が写真を撮っていて、「近所に住んでいてよく近くを通るけど、来たのは初めて。こんなきれいな場所だったなんて」と話していた。
記者がここを訪れたきっかけは、西ジャワ州環境局の職員に勧められたこと。3月にチタルム川の汚染問題を取材した際、「川の0キロ地点には素晴らしい湖があるので、次回はぜひ見てほしい」と言われ、ようやく来ることができた。
チタルム川はジャカルタ特別州や西ジャワ州民の生活を支える重要な水源だが、工場廃水や生活排水が原因で水質が悪化。雨期には川沿いに捨てられた大量のごみが川に流れ込み、川にごみが堆積するなど深刻な汚染が問題となってきた。
そこでジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が2月、7年間がかりの本格的な同川の浄化に着手、中央政府や自治体、軍らによる協力体制を作った。
前出のカルニタさんら軍の隊員も「チタルム・ハルム(臭くないチタルム川)」を目指すプログラムの一員。チサンティ湖を含む第1地区を担当するカルニタさんらは、チサンティ湖にびっしりと大量繁殖していた水草や藻を数カ月かけて除去した。さらに湖の周りを歩きやすく整備するなどし、環境に配慮しながら観光誘致も図っていくつもりだ。
チタルム川の汚染対策は住民にも周知されているようで、湖を訪れたバンドン県ソレアンのイワン・スドラジャットさん(26)は「大統領が川の浄化に着手してから、毎年洪水であふれていた川のごみも減ったように感じる」と話す。
湖に来る途中、チタルム川沿いの道を通った。対策の成果か、川は「見違えた」とまでは言えないが、前回訪れた時にごみが浮いたり詰まったりしていた場所はきれいになっていた。かつて「世界一汚い川」の不名誉を受けたチタルム川もいつか、美しい観光名所になる日が来るかもしれない。 (木村綾、写真も)