女形舞踊家、多彩な魅力 「性を超えるダンサー ディディ・ニニ・トウォ」 阪大の福岡教授 英語で本出版
大阪大学大学院の福岡まどか教授(53)が、インドネシアを代表する女形舞踊家ディディ・ニニ・トウォさん(63)の活動についてつづった英語の本を出版した。華人系の文化人としてスハルト政権下の「ストレートな表現が難しい時代」を乗り越え、さまざまな国や地域の舞踊を取り入れながら女性を表現するディディさんの作品や背景を解説、カラー写真やDVD映像と共に魅力を伝えている。
本は「Indonesian Cross-Gender Dancer DIDIK NINI THOWOK」(大阪大学出版会)。2014年に出版した「性を超えるダンサー ディディ・ニニ・トウォ」(めこん)の英訳版で、写真や内容を刷新した。「廃れてしまったジャワの女形の伝統を復活させたい」と、1980年代から女形舞踊の創作を手掛けてきたディディさんの活動を本人の談話を交えながら解説している。
「女形」と聞くとたおやかで美しい女性をイメージするが、ディディさんは老婆や醜女、コミカルな女性なども演じ分ける。ジャワやバリ島各地の舞踊を学ぶ一方、東京に滞在して日本舞踊や能楽の仕舞を学んだ経験も持つ多彩な踊り手。本では「コメディアン」としての側面や海外での公演活動も紹介している。
鮮やかな衣装をまとって踊る姿を写したカラー写真と付録のDVDも見どころ。例えば代表的な仮面舞踊作品「ドゥイムカ(二つの顔)」では、顔の前後に異なる仮面を付け、正面と背面で違う表情を見せながら踊る。正面はおたふく面姿で日本舞踊を披露し、後頭部にはジャワの面をつけて後ろ向きでジャワ舞踊を踊るという、独創的な作品も。あらゆる踊りを得意とするディディさんを福岡さんは「器用な人」と表現する。
福岡さんは1988〜90年に国立舞踊アカデミー(現インドネシア芸術大学)バンドン校に留学、西ジャワの大衆舞踊ジャイポンガンから伝統武術プンチャックシラットまでのさまざまな「踊り」を習得した。留学中に学んだ仮面舞踊がきっかけでディディさんに引かれ、以来、活動拠点のジョクジャカルタに毎年通うなど研究を重ねてきた。
本のタイトル「クロスジェンダー・ダンサー」にあるようにジェンダーの境界を超えて民族性を表現するディディさん。その背景にある「出生」についても解説している。
ディディさんは1954年、華人の父とジャワ人の母の間に生まれた。「スハルト政権下で、華人系ジャワ人としてアイデンティティーを表現しづらい時代を過ごしてきた。人間としてのいろんな女性の側面を表現したいという活動の背景には、ストレートな表現が難しい時代を生きてきた歴史があるのでは」と福岡さんは話す。
B5変形判160ページ。ディディさんの踊りやインタビューを収録したDVD付きで、税抜き5400円。ジャカルタの紀伊國屋書店にも近く入荷予定。(木村綾)