【カツオ一本釣り 実習生と挑む(下)】技術移転に課題 帰国後は別の仕事も
カツオの一本釣り漁は、群れが来て約15分間が勝負。餌のイワシをまき、次々と釣り上げるため、素早い動作が求められる。群れが接近すると「餌ー! 餌ー!」と船上に声が響く。餌運びは1年生の仕事。2年目のソフィアントさん(21)は「(餌を)運ぶのが遅かったら、怒られた」と振り返る。
一本釣りで使う釣り針には「返し」と呼ばれる突起がなく、魚が外れやすくなっている。3〜5キロあるカツオを一匹ずつさおで釣り上げて背後に放り投げる漁法は熟練が必要。本格的にさおを持てるのは2年目からで、ソフィヤントさんは漁法を習得したばかりという。
しかし、実習制度の目的である技術の移転には必ずしもつながっていないのが実情だ。ソフィアントさんは帰国後、「大学で日本語を勉強して、日本語の先生になりたい」と話す。3年間の実習を終えた、中部ジャワ州トゥガル出身のアフマッド・ルクマンさん(22)は「大学に入って英語を勉強したい」。父と弟はイカ船の漁師だが、「船には乗らない」ときっぱり。将来は自動車メーカーで働きたいという。
ジャワ島各地の水産高校の卒業生を面接して受け入れきた、高知かつお漁協の専務理事、松田憲二さん(59)によると、水産高校では、日本での実習実績がある学校に人気が集中する傾向があるという。実習後は日本での経験や日本語能力を生かし、日系企業への就職につなげたいと考える学生も多い。
ブディ・サントソさん(22)は日本に来た理由を「1番は経験。2番はお金です」と笑う。実習生らの多くは稼いだお金を祖国の家族に仕送りする。5人兄弟の長男であるルクマンさんは「全部送ったから残っていない」と話す。
両国の漁業環境の違いも技術移転のネックとなっている。例えば、船は日本がFRP(繊維強化プラスチック)製が多いのに対してインドネシアでは木造が主流。松田さんは「漁業(の近代化)が進んでいない状況で、日本の技術をインドネシアで生かすことはなかなか難しい。私たちは技術を提供しているから、向こうの技術に貢献して発展させてほしいという気持ちは強いんですけどね」と語る。
日本では11月18日、外国人技能実習生の実習期間を最長3年から5年に延ばす「外国人技能実習制度」の適正化法が国会で成立した。松田さんは「3年生で1人前。帰国されるのはデメリットが大きく、もう2年、頑張っていただきたい」と期待する。
ブディさんは3年間の日本滞在を間もなく終える。一本釣り船の船主、辻久志さん(54)が「3年でちょうど慣れたころに帰るから、もうちょっとおってもらいたいけど、本人は5年もおりたくないやろ」と笑うと、ブディさんも「3年で十分です」と控えめに笑った。(木村綾、おわり)