【カツオ一本釣り 実習生と挑む(上)】伝統漁業の屋台骨 高知の船に50人
船員不足に直面する日本の伝統漁業、カツオの一本釣り漁を支えるインドネシアの若者たちがいる。インドネシアから漁業技能実習生を受け入れて16年。一本釣り基地として知られる高知県黒潮町の佐賀漁港を訪ねた。
一本釣り漁は2〜11月、カツオの群れを追って漁場を変えながら行われる。休漁期に入った11月下旬、佐賀漁港近くの宿舎では実習生約50人が暮らしていた。
高知かつお漁協では2000年からインドネシア人実習生を受け入れ始め、現在は年間約50人を受け入れている。いずれも水産高校を卒業した20歳前後の男性で、3年間漁を学び、日本語も身に付ける。
陸に降りるのは3日〜2週間ごとの水揚げ時のみで、大半を船上で過ごす。「海に落ちたら危ない」との漁協の方針で、ムスリムの五行の一つ、ラマダン(断食月)中の断食は控える。1日1回、船室内で祈る。「本当は1日5回だけど」とアフマッド・ルクマンさん(22)。「コーランを持ち込み、安心のために毎日読んでいる」という。
同漁協の専務理事、松田憲二さん(59)によると、カツオ船の平均年齢は49歳と高齢化している。一本釣り船、第63佐賀勝丸(122トン、21人乗り)には3人のインドネシア人実習生が乗る。船主の辻久志さん(54)は「乗船したいという地元の若い子がいなくなって、かれこれ10年以上。実習生らに頼る船主が増えてきた」と話す。
外国人実習生をめぐっては、実習先から失踪するケースが各地で相次ぎ、問題になっている。かつて、フィリピンやベトナムからの実習生が逃亡したこともある同漁協では、インドネシア人実習生の受け入れ以降、逃亡はぴたりとなくなった。約12年前からインドネシア人実習生を受け入れる第151明神丸(167トン)の船主、明神好和さん(47)は「貴重な戦力として、カツオ一本釣りの屋台骨を支えてくれています」と語る。同船では約23人の船員中6人が実習生だ。
船主と実習生は一方で、親子のような関係でもある。「日本での親として、何かある時は守らなくてはならない」と明神さん。「うちの船に来る子にはよく言うんです。とにかくたくさん怒られる、だけど絶対気持ちで負けるなと。ここで3年間やれば、帰ってからどの国へ行っても、何の仕事をしても絶対やっていけるから」。
明神さんの船に乗る、ブディ・サントソさん(22)も怒られてきた一人だ。「仕事は大変だけどしょうがない。だから大丈夫」と腹をくくった。3年間の実習を間もなく終え、年内には母国に戻る。「時間を無駄にしないことが一番大事だと学んだ」と流ちょうな日本語で話した。(木村綾、写真も)
(つづく)