【高校生津波サミット(上)】「若い世代が被害防ごう」 アチェから被災体験胸に 高知・黒潮町に30カ国362人
世界30カ国362人の高校生が津波防災について話し合う「『世界津波の日』高校生サミットin黒潮」が25、26の両日、高知県黒潮町で開かれた。2004年のスマトラ島沖地震・津波の被災地、アチェ州からは2校計12人が参加。それぞれの被災体験を胸に、各国の生徒と意見を交わし、防災や復興への決意を新たにした。
「あの時のことは、全部覚えている」。04年12月26日。国立プカンバダ第1高校(アチェブサール県)のエド・プラヨガさん(17)は当時5歳だった。「日曜の朝だった。父と母と一緒に、自転車の練習をしていた。突然揺れた。何が起きたのかわからなかった」。しばらくして家に戻った時だった。「たくさんの人が『イブナ(大波)』と叫ぶのを聞いた」。当時17歳だった姉を失った。
国立バンダアチェ第1高校(バンダアチェ市)のムハンマド・ハイカル・ラジさん(17)はあの日、バンダアチェ市プニティの祖母の家にいた。海岸から1キロに位置するアチェブサール県カジュの実家にいた両親と当時8歳の兄は、助からなかった。「カジュには、ココナツの木よりも高い、15メートルの大津波が来たんだ」。地震の約9カ月後、跡形もなくなった家の前でうつむいて写る、当時の写真を見つめつぶやいた。
6〜7校ずつのグループに分かれ、「備え」や「復興」のテーマで発表し合った26日の分科会。日本やタイ、カンボジア、パラオの生徒の前で行われた発表の冒頭、ムハンマドさんは「自然災害はいつでも、どこへでもやってくる。若い世代の私たちには、被害を防ぐ大きな責任がある」と力を込めて話した。
「津波がアチェに来た時、多くの人は津波が何かということを知らなかった。このことがたくさんの被害者を生んだのです」。アチェ州の犠牲者は16万人以上。同校でも教員25人と生徒250人が亡くなった。災害から命を救うため、インスタグラムやフェイスブック、ブログなどのソーシャルメディアを使い、若者に防災の知識を発信していく行動計画を発表した。
ムハンマドさんは発表で「世界から53カ国以上の人々がアチェに助けに来てくれた。津波の2カ月後には、勉強を再開できました」と感謝した。現在高校3年生。「何か、私たちの国や町にとって価値のあることを学び、持ち帰りたいんです」。卒業後は、日本の大学で防災を学びたいと考えている。(木村綾、写真も)(つづく)
◇世界津波の日 日本やインドネシアを含む142カ国が共同提案し、2015年12月に国連で採択された。1854年11月5日に起きた安政南海地震の際、和歌山県広川町で村人が稲わらに火を付けて人々を高台に誘導したという逸話「稲むらの火」にちなみ、日本が中心となって各国に制定を働きかけた。
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