【デジタル羅針盤】 記事なのか広告なのか
ネット上では昨年末ごろから「ステマ」という言葉が話題になっている。ステルスマーケティングの略語で、消費者に気付かれないよう行う宣伝行為を指す。
例えばアクセス数が多いブログに、企業が金銭を渡して自社の製品を持ち上げる記事を書いてもらうというものだ。広告と明示されていないため、読者の側は、ブログ執筆者が自分の意思で製品を購入し、評価したと誤解してしまう。
昨年末ごろから、以前から特定企業の製品を持ち上げることが多いとされ、ステマ疑惑があった有名ブログが、広告代理店と接触していた事実が明らかになり批判を集めるなどいくつかの事件が契機となり注目され始めたのだ。
ブログだけでなくネットメディアの記事でも、こうしたステマが行われているのではとの疑惑が持ち上がり、「好意的な製品レビューを書くことができなくなっている」とネットメディアの記者が悲鳴の記事を書くほどになっている。
なぜ、これほどの騒ぎになっているのか。
「嘘を嘘と見抜けないと(匿名掲示板を使うのは)難しい」というのは、匿名掲示板「2ちゃんねる」を創設した西村博之氏の言葉で、インターネットで情報を収集する際の基本的な姿勢として、繰り返し引用されている。
書かれている内容が嘘かもしれないという前提の匿名での議論では、何かを主張するには、それを裏付ける情報ソースが必要になる。ソースは信頼性が高いものでなくてはならず、新聞や雑誌などマスコミの記事もよく引用される。
こうして無責任な書き込みばかりと思われることが多い匿名掲示板でも、一般に信頼性が高いと考えられているソースを基礎に議論が交わされている。
ステマ騒動の核心は重視されてきた情報ソースの一つであるマスコミの情報が、スポンサーとなる企業によって歪められているのではとの疑心暗鬼だ。
福島での原発事故の直後、マスコミが東京電力の批判を控えた(ように見えた)ことで、マスコミは広告を大量に出稿している東電を批判できないとの説が流れ、報道とスポンサーの関係の問題が意識され始めた。
その中でステマ疑惑が発生したことで、あらゆるマスコミの情報に過剰な不信を持つ人が少なからず現れ、現在の騒動になっているのだと思える。
ステマ騒動はまだ頻繁にネットで情報収集をする人にしか認知されていないだろうが、報道と広告の峻別はマスコミの根源的な問題の一つで、今後、大手マスコミも含めこの問いを突きつけられることもあり得るのではないか。(元じゃかるた新聞記者、福田健太郎)