【じゃらん じゃらん】 川を旅する もはや「秘境」ではないけれど… 東カリマンタン マハカム川

 今から20年以上前のこと、古本屋で手にしたロンリープラネット社のガイド本で、ほとんど何も知らなかったインドネシアについて読んだ。紹介されていた多数の旅行先の中でとりわけ印象的だったのが東カリマンタン州のマハカム川だ。どこまでも続く深いジャングル、大家族が住む伝統長屋……いつかは行ってみたいと思った。そのマハカム川を2泊3日かけて船で旅した。

 東カリマンタンの州都サマリンダの近く、マハカム川流域のロアジャナンから観光用のボートに乗った。川幅は500メートルはあるだろうか。石炭を満載した巨大なはしけがゆっくり茶色の川を下っていった。マハカム川は鉱物資源が豊富なカリマンタンの主要な輸送経路になっている。
 サマリンダから上流へ約40キロ、ボートはかつてのクタイ王国の都テンガロンに近づいた。突然、林の向こうに銀色に輝く巨大な建造物が現れた。8年前にオープンした、全国で有数の規模を誇るスタジアムだ。裕福な今のカリマンタンを象徴しているようで、ガイド本から受けたイメージとはかけ離れていた。
 この日はシャワーを浴びて、小さな個室の2段ベッドでエンジン音を聞きながら寝た。ボートは夜中、上流へと進み続ける。翌朝、デッキに出ると川幅が少し狭くなっていただけ。木々も密集してはおらず、すぐ背後に平らな農耕地が透けて見えた。
■渡り廊下で結ばれ
 いくつもの集落を通り過ぎてさらに進むと、家具などを売る店が見えてきた。買い物客がボートでやって来ることを除けば、そのままバリ・デンパサールの繁華街にあってもおかしくない店構えだ。水上交通の中継点、ムアラムンタイに着いた。川べりには無数の柱で支えられた水上家屋が密集し、川岸から200メートルくらい奥まで板張りの渡り廊下で結ばれている。渡り廊下には「××通り」と標識が立てられ、バイクに乗った若者がガタガタと音を立てて走り去って行った。カリマンタンの豊かな森がもたらした建造物だ。
 ここから小型ボートに乗り換えて、水草の浮かぶ広大な湖を通り抜けて支流に入った。比較的大きな集落があった。個々の家の前に突き出たいかだの先端にトイレ小屋があり、そのすぐ脇で食器洗いや洗濯をしている女性がいた。ここでも若者がバイクで渡り廊下を走っていた。
■テングザルの群れ
 さらに奥に進むと、大きく根を張った巨木が目立つようになった。原生林に見えるが、水辺からどれくらい奥まで続いているのだろうか。ざわざわという音がしたので見上げるとテングザルの群れがいた。エンジンを切ると、それまで風に当たって涼しかったのがとたんに蒸し暑くなり汗が噴き出した。
 支流の最終地点、マンチョンに到着。村の広場には記念物として保存された地元ダヤック人の伝統長屋がある。彫刻を施した立派なもので、中に入るとそのがらんとした広さに驚く。
 支流起点のムアラムンタイに戻る前に湖畔のタンジュンイシュイに寄った。桟橋を歩いて村に入る途中、小屋の中にトヨタのアバンザが置いてあった。村には伝統長屋を利用した安宿がある。内部はいくつかの部屋に仕切られているが、快適とはいいがたい。客のほとんどは欧州人だそうだ。
 マハカムの旅はここまで。翌日、ボートは川を引き返し、スタジアムのあったテンガロンに立ち寄った。ここでクタイ王国やダヤック人の歴史や文化を学べるムラワルマン博物館に行った。展示物は豊富で、展示の仕方にも工夫があり、保存状態も良かった。 その昔、内陸部へ行くには川しか交通手段がなく、情報も限られていたころ、マハカム川流域は外国人旅行客にとって「秘境」だった。地元ガイドのインドラさんによると、今そうした場所に行くには、ムアラムンタイからさらに200〜300キロ行かなければならない。そこまで行くと川は切り立った崖に挟まれた急流になる。見せてもらった写真には私が思い描いていたマハカム川があった。(北井香織、写真も)

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