汚職を政略利用 追及、政権の試金石に センチュリー銀→民主党 中銀→ゴルカル党、闘争民主党
政治家が絡む汚職事件が党利党略のために政治利用される様相となっている。二〇〇四年の中銀幹部選汚職事件で収賄罪で多数の党員が収監された国会第二、第三党のゴルカル党、闘争民主党(PDIP)の両党は、〇八年のセンチュリー銀行公金流用疑惑などをてこにユドヨノ大統領の民主党を揺さぶる構えを見せる。連立を構成するほかの政党幹部にも汚職疑惑がくすぶっており、複雑な利害関係が絡む政治家の汚職追及でいかに成果を残すことができるか、汚職撲滅を最優先課題に掲げるユドヨノ大統領と新体制の汚職撲滅委員会(KPK)の真価が問われることになる。
中銀幹部選汚職事件では、〇八年の事件発覚から三年以上が経過した今月十日、贈賄側の中心人物とみられるヌヌン・ヌルバエティ容疑者がようやく逮捕された。今年に入って三十人に上る元国会議員が逮捕された事件は、ヌヌン容疑者の逮捕でさらに大きな政治疑獄に発展する可能性もある。
〇四年当時、国会議席を持っていなかった民主党に疑惑の火の粉が降りかからない同事件の追及をめぐっては、ゴルカル党や闘争民主党は当初から「狙い撃ちだ」との反発が強かった。今年一月の同事件にかかわった政治家二十二人の一斉逮捕が、ゴルカル党などが司法マフィア問題で政権批判を展開した直後だったことも、「政権による報復」との見立てを強めた。
■新幹部は妥協の産物
同事件で守勢に回るゴルカル、闘争民主両党は、今月初めのKPK幹部選で、昨年スリ・ムルヤニ蔵相を辞任に追い込んだセンチュリー銀疑惑を改めて持ち出した。
委員長選では両党が支持に回ったアブラハム・サマッド氏が当選。地元メディアでは、両党はサマッド氏とセンチュリー銀問題の一層の追及で合意したとの憶測も流れており、「政治的妥協の産物」(インドネシア科学院=LIPI=のシャムスディン・ハリス氏)との見方が強い。
同問題では二〇〇九年の大統領選でユドヨノ大統領陣営の資金を流用したとの疑惑もあり、両党は二〇一四年の次期選挙まで問題を引っ張りたい考えだ。
■「身内切り」で再評価
民主党にとってもう一つのアキレス腱となっているのは今年発覚したSEAゲーム(東南アジア選手権大会)選手宿舎建設に絡む汚職事件。すでに公判が始まったムハンマド・ナザルディン被告のほか、アナス・ウルバニングルム党首やアンディ・マラランゲン青年スポーツ担当国務相ら党中枢の関与も指摘されている。
捜査の進展によっては党分裂の危機へ発展する可能性がある一方、大統領親族の元中銀幹部アウリア・ポハン氏を汚職罪で収監したことは、有力者であっても例外を設けない汚職撲滅への強い姿勢を印象付けるものとなっており、ユドヨノ大統領が再び「身内切り」を実行できれば、支持率低下に苦しむ政権への再評価につながる可能性もある。
■与党の汚職疑惑も
KPKは今月九日には、地方のインフラ開発に絡んだ収賄の容疑で国会予算委員会委員で国民信託党(PAN)のワ・オデ・ヌルハヤティ議員を容疑者に断定した。
予算委の疑惑を告発してきた同議員の逮捕に対しては「政治的な動機が背後にある可能性がある」(党幹部のビマ・アルヤ・スギアルト氏)と反発の声が上がっている。
労働移住省の汚職事件では、KPKは民族覚醒党(PKB)党首のムハイミン・イスカンダル労働移住相の事情聴取を行っている。ともに連立与党のPANとPKBの中で持ち上がった汚職疑惑に対して、ユドヨノ大統領がどのように対処するかも注目されている。
【政界揺るがす主な汚職事件】
◇センチュリー銀事件
二〇〇八年に経営破たんした旧センチュリー銀行(現・ムティアラ銀行)に注入された公的資金が、当初算出された六千三百億ルピアから六兆七千億ルピアに膨れ上がったことで、当時政策責任者だったブディオノ副大統領やスリ・ムルヤニ蔵相(当時)の責任問題に発展。スリ氏は辞任に追い込まれる結果となった。公的資金が大統領陣営の選挙費用に流用された疑惑もある。
◇SEAゲーム宿舎事件
今年開催されたSEAゲーム(東南アジア選手権大会)の選手宿舎建設事業の入札をめぐり、民主党幹部のムハンマド・ナザルディン被告が国会や青年スポーツ担当国務相事務所と建設業者との間の便宜を図り、見返りとして裏金を受け取った疑い。ナザルディン氏は、裏金はアナス・ウルバニングルム党首を選出した党首選に流用されたと訴えている。
◇中銀幹部選挙事件
二〇〇四年に国会第九委員会(金融・開発計画)が実施した中銀上級副総裁選挙で、出馬したミランダ・グルトム氏側が裏金を渡す代わりに、各党が同氏支持に回ったとされる。〇八年に闘争民主党員が暴露したことをきっかけに事件が発覚し、同党やゴルカル党を中心に政治家三十人が逮捕。今月、賄賂の資金提供者とされるヌヌン・ヌルバエティ容疑者が逮捕された。