がんばる日本企業 バタム島が世界への輸出港

 バタム島の名前が日本で注目を集め始めたのは1970年前後である。米国の大手建設会社ベクテルが日本の大手商社と組んで基本計画を策定した。現在はこの基本構想の上にインドネシアとシンガポール両国政府が手を結んで自由貿易地域として一層の開発に取り組んでいる。バタム島に進出している日系企業は2014年6月現在で27社(バタム島日本人会)に達した。他国を含めた外資全体では1443社に上る。外資企業の狙いはさまざまである。日系企業の場合シンガポールや日本への部品供給拠点から発足した。いまでは2015年に発足する東南アジア諸国連合(ASEAN)共同体市場を目指すより戦略的な事業拠点として期待する企業も少なくない。バタム島で事業展開するエプソンと新たに進出を決めた横浜ゴム。両社の企業戦略を検証した。

エプソン・バタム
 エプソン・バタムは1991年に設立。バタム島の日本企業の動きを象徴するような事業活動を展開してきた。インクカートリッジ生産拠点であるとともに、半導体(IC)実装、スキャナー生産も手掛ける。工場は約3000人のインドネシア従業員が2交代制で24時間稼働。シンガポールから20キロという立地を生かして、バタムで生産した製品をシンガポール経由で東南アジアや南米など全世界に供給している。また、同社の環境活動はインドネシア政府からも高い評価を受けている。環境に配慮したインク廃液処理システムの構築やノンクリーンルーム環境でのスキャナー生産を実現し、大幅なエネルギー削減を成功。このスキャナー生産で培った落下塵管理技術をインクカートリッジ事業、IC実装事業へも展開している。また、同社は企業の社会的責任(CSR)の一環として、学校、公共施設、浜辺、現地集落などへの植樹活動や地元小学生への環境教育を行っている。植樹活動については、06年から12年までに1295本の木を植えた。近年の賃金上昇などにより日本企業は苦しい状況にあるなか、エプソン・バタムはバタムに根づき地元の人にも愛される企業として操業している。

横浜ゴム
 横浜ゴムはバタム島東部のカビル工業団地内に海洋商品
(空気式防舷材、マリンホース)の新工場を建設する。約 30 億円を投資し材料混合、成型、加硫までを行う工場を建設、2015年6月から生産を開始する。広報担当者は「バタム島に新工場設立を決めた背景は、アジア最大のハブ港であるシンガポールから 20キロメートルと近く、国際物流面 での利便性に優れていることが決め手だ」と話した。シンガポールを経由して、アセアン諸国や欧米など全世界に製品を供給する予定だという。現在、日本で生産している海洋商品は、新工場が完成すると2工場体制となり、生産規模も現在に比べ約1.5倍に拡大する。主に原油などの海上輸送に使用される海洋商品は、世界的な石油需要の増加に伴い順調に需 要を伸ばしている。横浜ゴムは海洋商品の世界トップメーカーの1社で、空気式防舷材が世界シェア第1位、マリンホースが第2位を占めている。横浜ゴムでは高い品質とブランド力を背 景にさらに市場シェア拡大を目指す考えで、コスト競争力に優れた海外生産拠点としてバタム島に大きな期待をしている。新工場は約5万平方メートル の土地使用権を取得し建設するが、将来的には隣接する土地区画への拡張も計画している。

 バタム島の開発、発展に長い間携わってきた、パナソニック(当時は松下電器産業)のインドネシア合弁法人代表だった木下一(78)バタム島開発庁アドバイザー。大阪を拠点に両国間を飛び回っている。

−バタム島の現状をどう見ますか
 外資企業に加え地元インドネシア企業の進出も急ピッチで増えた。島全体で20カ所を超える工業団地や国際空港の整備などに加え、内外との近代的な通信網の拡充にも成功。経済のグローバル化の流れに乗って大きな発展を見せている。70年代当初の人口はわずか6千人ほどだったが、現在は120万人を超える都市に発展した。

−過去のバタム島への投資状況は
 バタム島はかって熱帯雨林に覆われた小島だった。1970年代の初めに国営石油ガス・プルタミナの操業拠点が置かれたことが発展のきっかけになったと思う。当時のスハルト政権は急速に経済発展しているシンガポールに隣接したバタム島に着目、国家政策として自由港を建設する構想を打ち出して開発構想が動き出した。
 スハルト大統領の信頼が厚かった国家戦略担当のハビビ国務相(後の大統領)がバタム開発庁を率いていた時期に国際空港の建設など島の画期的な近代化に着手した。インドネシアの大手企業グループも加わってシンガポール政府と連携し工業団地の建設で外資企業の誘致を進めた。

−バタム島の置かれた位置について
 バタム島を取り巻く経済環境が大きく変わった。2015年に東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)発足を控えるなど、本格的にASEAN市場が動き始めるとバタム島はさらに重要度を増すだろう。地理的な優位性と自由貿易が保証された「フリーゾーン」としての存在が際立つ。
 本格的にグローバル市場へ乗り出す際に課題となるのは、物流面だ。具体的には、港湾施設のさらなる拡張整備とシンガポールを経由しなくとも直送が可能になる輸送体系を確立することが肝心だと思う。現在、シンガポール経由での物流が中心となっていることが物流コストを肥大させている。政府は物流関連への外資企業の参入を促すことが必要だろう。

−今後、バタム島への投資に向いている業種は
  精密機械や部品の加工業に優位性が考えられる。品質を確保する観点から原料、部品を日本または外部から持ち込み、バタムで付加価値を付け仕上げる類の業種が有望だろう。労働賃金の上昇の懸念ももちろんある。ただ、バタム島は、隣接のスマトラ島やジャワ島から豊富な労働力を確保できる強みがある。今後のバタム島の労働賃金は、次第に落ち着く方向にあると見て良いのではないか。

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