【じゃらんじゃらん特集】南国の気候とモダニズムが融合 国家建築家の自邸
イスティクラル・モスクなど国を代表する建築を設計したフリードリヒ・シラバン(1912ー1984)。戦後、スカルノ大統領お抱えの「国家建築家」として活躍し、自宅も自ら設計した。西ジャワ州ボゴール駅から徒歩10分ほどの一等地に、南国インドネシアの気候と近代デザインが融合した建築が残っている。
建築家は自邸が代表作となる場合が多く、シラバンもその例にもれない。設計事務所も併設し、深い軒を持つ大きな一枚屋根が20ほどある部屋をすっぽりと包む。妻入りの建築が多いインドネシアで、奥行きが浅い平入りの配置だ。そのため、前庭と後庭が各部屋に直接面し、天井との間に隙間がある壁のおかげで南北に風がよく通る。
2階の製図室からは吹き抜けで子どもたちの部屋とつながり、10人の子どもがいたシラバンは、上からよく子どもたちの様子を眺めていたという。
内部は家の中心を東西に抜ける廊下が部屋の役割を明確に分けており、建築のプロポーションもクラシカルな印象が強い。機能的なモダニズム建築に南国の特徴を取り入れた傑作だろう。
北スマトラ州出身のシラバンは1929年に高等専門学校卒業後、オランダ統治時代の公共事業局に勤務。その後多くのデザインコンペティションに勝利し、54年のイスティクラル・モスクやバンク・インドネシアのコンペも勝ち取る。当時、単なる伝統的なデザインではなく、現代インドネシアを象徴する新しい建築を求めていたスカルノ大統領に認められ、お抱え建築家となった。
今、自邸には6男のハポサンさんがメードとともに住んでおり、見学はできない。(高橋佳久、写真も)