【振り返る2013年】選挙へ駆け引き激化 好況に暗雲漂う
大幅賃上げや首都ジャカルタの大洪水で幕を開けた1年。政界を揺るがす汚職事件が続発し、10年ぶりに新大統領が誕生する来年の選挙に向けた動きもいよいよ活発になり始めた。外交ではアジア太平洋経済協力会議(APEC)や世界貿易機関(WTO)の会議開催国となり、国際社会で存在感をアピール。しかし、好調だった経済にはルピア安や貿易赤字など暗雲がたれ込め、政府や中銀は対応に苦慮している。2013年を振り返った。
■内需堅調も成長減速
内需は依然好調だが、マクロ経済は減速傾向が鮮明になっている。
第2四半期の経済成長率は前年同期比5.81%で、11期ぶりに失業率を低下させる最低水準と言われる6%を割り込んた。第3四半期も5.62%となり、通年の成長率も6%割れが確実視される。
5月には、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和縮小観測が上がり、新興国からの資金流出が進んだ。前年まで中国やインドを尻目に堅調な成長を続けていたインドネシアも、折からのインフレ懸念や貿易赤字の拡大を背景に株安、通貨安が進行。6月には補助金石油燃料の値上げに踏み切り、さらなるインフレ率上昇を招いた。
未整備なインフラや賃金の急上昇などの問題を抱えながらも、一方で直接投資は過去最高を上回るペースが続く。1〜9月期は前年同期比約27%増を記録。外国投資の国別では、日本が16%のシェアでトップとなった。
国際協力銀行(JBIC)の最新のアンケートで、中国を抜きインドネシアが初めて中期的な投資有望国のトップとなるなど、日本からの投資熱は健在。自動車業界では、低燃費・低価格車への優遇税制政策「低価格グリーン・カー(LCGC)プログラム」が始動し、関連投資が相次いだ。
自動車向けは一服感があるが、巨大市場をめがけた外食などサービス産業の進出は著しい。投資を手控える傾向が強い選挙の年の動向が注目される。
■沈む与党、昇る野党
政界を動かしてきた連立与党が相次いで、大型汚職事件に沈んだ1年。総選挙の勝者民主党では、若手ホープのアナス・ウルバニングルム党首(当時)が競技場建設に絡む汚職事件の容疑者に。深刻な内部対立は、ユドヨノ大統領とその親族、仲間が党権力を分け合う体制にたどり着いた。支持率は急坂を転げ落ち、最盛期の半分以下だ。
国会第4党の福祉正義党も牛肉輸入汚職事件で壊滅的な打撃を被った。捜査の過程で、敬虔なムスリムによる慈善活動で都市中間層の心をつかんだイスラム保守から、あられもないスキャンダルが露わになる。ルトフィ前党首には早々と第1審で禁固16年の判決が下された。
国会第2党ゴルカル党には憲法裁判事買収事件が降り掛かった。元ゴルカル党国会議員のアキル憲法裁長官に加え、ラトゥ・アトゥット・チョシヤ・バンテン州知事も逮捕される。同族企業への優先的な公共事業の配分、知事選での政党買収と、父が築いた州の一族支配を揺るがす疑惑が連日報じられる。ジャワ島で同党が保持する唯一の知事ポストを失う危機が迫る。
連立与党に代わって勢いを得たのが、わずか国会26議席の小党グリンドラ党。支持率は民主党を抜き3強の一角に躍り出た。党を率いるプラボウォ・スビアント氏は一時、大統領選レースの先頭に立った。都市から農村への所得再分配を進めるという持論と強面の印象で人気の浸透をうかがった。
しかし、それを一気に凌いだのがジョコウィ・ジャカルタ特別州知事だ。昨年の知事選で州民を魅了したソロの革新首長は、今年の中頃には全国を魅了していた。現場に自ら足を運ぶと、眠っていた行政が動き出す。知事のイメージが04年から野党の闘争民主党を支持率トップまで引き上げた。大統領選を控え、党の内外で知事をめぐる駆け引きが激化するが、本人は出馬意志を秘したままだ。
■外交で成果、宿題も
旅客機事故も相次いだ。ライオンエア機がバリで着陸に失敗し、海に転落。わずか2カ月後には、東ヌサトゥンガラ州でムルパティ・ヌサンタラ航空機が滑走路を逸脱したほか、空港に迷い込んだウシをはねた事故も起きた。どれも死者はでなかったが、急成長する航空業界の危険なひずみが露見した。
任期末期のユドヨノ大統領がこの1年、特に力を入れたのが外交。アジア太平洋経済協力会議(APEC)に続く世界貿易機関(WTO)閣僚会議では、関税手続き簡素化などで部分合意へ導き、ドーハ・ラウンドで初めて具体的成果を上げた。
越年した宿題は盗聴問題を機に冷え込んだ隣国・豪州との関係だ。次期政権にツケを残さぬよう、軟着陸を図りたい。(上野太郎、吉田拓史、道下健弘)