【ポスト・ユドヨノ時代を読む】台風の目、ジョコウィ氏 政界は旋風に戸惑いも

 前回、2014年選挙がインドネシアにとっていかに重要なのかを確認した。では、その来年の選挙の行方を決定づけるものは何か。それは、まぎれもなくジョコ・ウィドド(愛称ジョコウィ)ジャカルタ特別州知事である。この「時の人」がどう選挙に絡むのか。それが全てと言っても過言ではない。
 ジョコウィ人気はすさまじい。昨年10月の州知事就任以来、彼は次々と州の行政改革に取り組んできた。その成果は賛否両論だが、目に見える「住民本位」の改革姿勢は多くの市民に高く評価され、彼は一躍「庶民派」リーダーとして認知されるようになった。それに伴い、今年に入って各種世論調査もジョコウィ氏を大統領候補として取り上げるようになり、断トツの人気が立て続けに示されたことで、国内外のメディアも彼を最有力大統領候補として注目するようになった。彼の一挙一動が連日メディアをにぎわせ、草の根の支持が全国に広がる中、政界は怒涛の「ジョコウィ旋風」に戸惑いを見せている。
 なぜ戸惑うのか。合理的なセオリーで考えれば、人気者のみこしを担いで選挙をやれば政権が取れる。簡単な話だ。ジョコウィ氏が属する闘争民主党(PDIP)が、彼を擁立して大統領選挙に臨めばよい。その方針を来年4月の総選挙前に打ち出せば、ジョコウィ・ブームに便乗して自党の国会議員候補も大量に当選するし、彼らの選挙活動費も少なくて済むし、次期政権では行政府も立法府も自党が牛耳れる。勝負は決まり。ライバル政党や大統領候補は、あっけなく撃沈。これがセオリーであり、ジョコウィ氏がその定石に沿って出れば勝利は120パーセントであろう。
 面白いのがセオリー通りにいかない可能性である。だから政界も戸惑う。おそらく一番戸惑っているのが闘争民主党党首のメガワティ元大統領だ。彼女は状況をどう見ているか。上記のセオリーを頭では理解しつつも、一方でジョコウィ人気を「脅威」と感じるようになっている。特に党内外にいる彼女の取り巻きたちは、ジョコウィ擁立を阻止すべく、彼女に様々な提言をする。ジョコウィ氏のような新参者を大統領候補にしたら、スカルノ主義を貫いてきた党の存在意義は消滅する。ジョコウィ氏が大統領になったらメガワティ氏の影は薄くなり、15年の党大会で党首交代を迫られる。
 それはこの国における「スカルノの血」の終わりを意味する。そうならないためにもメガワティ氏が大統領選に出馬するのがベスト。このような理屈で彼女を「持ち上げて」説得しようとする試みが急速に強まっている。特に9月初旬に開催された党の全国集会で、州支部代表の大多数がジョコウィ擁立に賛成を表明したことで、メガワティ氏の取り巻きは警戒レベルを一気に上げた。
 この取り巻きたちは、メガワティ氏に寄生することで、長年、様々な利権と恩恵に授かってきた。彼らにとって、選挙での勝敗よりも実はメガワティ氏が政界でプレゼンスを示し続けることが大事なのである。ジョコウィ旋風はその安泰を妨げかねない。だから脅威に映る。
 ジョコウィ氏を出すか出さないか。決めるのはメガワティ氏である。合理的にセオリーで考えるのか。それとも取り巻きに感化されるのか。彼女の思考回路は複雑だ。強力なジャワ人的発想に加え、密教の影響、そしてスカルノ信仰の世界で女王様として長年カリスマ扱いされてきた人の人間観。すべてが彼女の決断に影響を及ぼす。どう出るか。いつ決定されるか。それによって選挙の力学も次期政権の見通しも大きく変わってくる。それらの展開について次回から考えていこう。(立命館大学国際関係学部教授・本名純、月1回のペースで随時掲載予定)

政治 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly