多様化 ムスリムファッション 女性のブログ・SNSで広がり 実用・機能面も重視
色とりどりのスカーフをブローチで留め、おしゃれに頭を覆った若い女性。つま先まで伸びた布を重ね、ボリューム感を持たせたスカート姿―。この数年、国内でファッション性や機能性に長けた衣服をまとったムスリム女性が目立っている。火付け役になったのは若手のインドネシア人女性2人が始めた、新しいムスリム・ファッションを紹介するブログ。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて瞬く間に話題となった。これまでタブー視されてきた水着でも、需要に即した実用的な商品が登場。ムスリム女性の間に開放的で多様なライフスタイルが広がりつつある。
ムスリム女性はスカーフで髪の毛を隠すのが一般的。このスカーフはインドネシアでは「ジルバブ」と呼ばれ、これまでは質素な柄でシンプルな巻き方が多かった。しかし数年前からさまざまなスタイルが見られるようになり、若い女性たちは多様な巻き方にアレンジしたスカーフのことを「ヒジャブ」と呼び、おしゃれを楽しんでいる。
写真家兼ウェブデザイナーのフィフィ・アルフィアントさんとライターのハンナ・ファリドルさんは2010年5月、スカーフのおしゃれな巻き方などを紹介したブログ「Hijab Scarf(ヒジャブ・スカーフ)」を立ち上げた。フィフィさんらは、ムスリム女性としてジルバブなど体を覆うものを身に着け始めたころ、「不格好に見えるのは仕方のないこと?」と素朴な疑問を抱いた。葛藤の末、「ジルバブは慎ましさの象徴だけでなく、女性の心を前向きにするもの」との考えに至った個人的体験を紹介。具体的な例としてジルバブやパスミナなどのスカーフを用いて、エレガントに見えるよう工夫した巻き方のバリエーションを紹介していった。
ブログでインターネット上から話題が広がり、国内ムスリム女性の間で人気になった。比較的寛容といわれるインドネシアの社会では、ヒジャブ着用は個人の判断に委ねられることが多いが、現代的なスタイルは若い女性たちにとって大きな刺激となった。
ムスリム女性のファッション意識の高まりに、素早く反応したのが衣料品市場。ジルバブと呼ばれる従来の正方形のスカーフに加え、長方形のパスミナが人気となっている。
タナアバン市場(中央ジャカルタ)で営業するアリス・スジャヤディさん(40)の店では、色や柄が表裏で異なっていたり、シルク素材やメッシュ加工など多様なスカーフを揃えている。「結び方の幅が広がるので、従来のジルバブより売り上げが大きく上回っている」とアリスさん。スカーフを着用する際の下地となる、髪の毛を抑え込む布=ダラマン(かつら下)も多様化している。若者の間で人気を伸ばしているのは近年登場した「ダラマン・ニンジャ」。忍者のように首や胸元まで覆い隠せるため、スカーフを上から緩く巻くだけで済むのが利点だ。
ファッション誌も頻繁にスカーフの巻き方を特集している。ムスリム女性向け主要誌LAIQA(ライカ)は、人気ブロガーとなったフィフィさんへのインタビューとともに、巻き方の詳細を紹介した写真を掲載。刺激を受けた読者が、独自に考案した巻き方を動画投稿サイトに投稿するなど、従来メディアとSNSの相乗効果で新スタイルが浸透している。
■全身覆う水着も
ファッション性に加え、実用・機能性も重視され始めた。頭から足首まで全身を覆う水着が昨年から人気となっている。ムスリム女性はこれまで、公共施設のプールやビーチでは普通の衣服のまま泳ぐしかなかった。最近はデザイン性に富み、つなぎ状であったり、スカート状に腰元で絞ってレギンス(伸縮性素材パンツ)で足を隠すなど、さまざまな形の水着が登場。ムスリムの需要に応えた商品が店頭に陳列されるようになった。非ムスリムの間でも、日焼け防止や体型が隠せる水着として注目されている。
中央ジャカルタの国営サリナデパートは、5年前から販売している。衣料品コーナー店員のシスカ・アンバルワティさん(20)によると、人気が沸騰し始めたのは2012年ごろから。若者だけでなく年配の女性もよく購入していくという。(高越咲希、写真も)
◇ヒジャブとジルバブ 元々はどちらも「覆うもの」「覆うこと」を表し、頭や体を隠すベールを指す。イスラム圏内の各国・地域によって言われ方が異なり、インドネシアではムスリム女性が頭を覆う布を「ジルバブ」と呼んでいる。「ヒジャブ」という言葉が浸透し始めたのは最近。