地域統合を後押し バリWTOの成果目標明記 APEC閣僚会議閉幕
アジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議は5日、バリ州ヌサドゥアで2日間の日程を終え、閉幕した。同日採択した閣僚声明では、環太平洋連携協定(TPP)などを念頭に、地域的な経済統合に向けた取り組みを支持したほか、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の打開に向け、12月にバリであるWTO閣僚会合での具体的成果を目指すとした。宣言は7、8の両日にある首脳会議での討議のたたき台になる。
声明では、2020年までに域内の貿易投資の自由化を目指した「ボゴール目標」の堅持を確認。全加盟国・地域を対象にしたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想の実現に向け、域内で進む地域経済統合の動きをAPECとして後押しすることを確認した。
ドーハ・ラウンドの停滞を打破するため、税関手続きの簡素化や農業、開発支援策を、バリの閣僚会合で合意を目指す分野として明記した。関税撤廃品目の拡大を目指して進めている情報技術協定(ITA)の改定交渉も、閣僚会合までの妥結を目指すとした。新たに保護主義的政策を取り入れないとするAPEC首脳間の約束期間を1年延長し、16年までとするよう首脳に進言する。
域内の結びつきを強めるため声明では質の良いインフラ整備の必要性を指摘。投資環境の整備や官民連携による民間資金の活用の促進、政府職員の能力構築支援などを複数年計画にまとめる。このほか、女性の起業促進や域内の食糧安全保障の強化に向けた取り組みを進めることなども盛り込んだ。
◇加盟国の危機感にじむ
12月にバリで開く世界貿易機関(WTO)定期閣僚会合に向け、税関手続き分野などを具体的目標として掲げたAPECの閣僚声明。新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)はこう着状態が続いており、バリ会合で目立った成果を出さなければ、WTO体制自体の崩壊を招きかねないというAPEC加盟国の危機感が表れている。
2001年に始まったドーハ・ラウンドは先進国と途上国が対立し、「議論がまとまらないだけでなく、新たなものを全くつくっていない」(日本経産省関係者)状況にある。5日の貿易担当相会議では、茂木敏充経産相が「(バリ会合は)多国間の交渉が今後とも機能するかの分水嶺になる。WTOの信任が失われれば全員が敗者になる」と発言するなど、APECとしてWTOの議論を牽引していく方針を確認。比較的合意に近い、税関手続きなどの分野に絞って成果を目指すことで一致した。
150カ国以上が参加するWTOと違い、APECは比較的少数で、しかも経済の牽引役になる国や地域が集まる。声明は7日からの首脳会議の議論の土台となり、首脳宣言にも盛り込まれる見通しだ。
メンバーを法的に拘束しない緩やかな協力を原則とするAPECだが、首脳による政治的メッセージの意味合いは大きい。共同議長を務めたインドネシアのギタ・ウィルヤワン商業相は閉幕後の記者会見で「世界経済の6割を占める国や地域の合意には、ヨーロッパや南アジア、アフリカなどのWTO加盟国も耳を傾けるだろう」と閣僚声明の意義を強調した。(バリ州ヌサドゥアで道下健弘)