【じゃらんじゃらん特集】 虐殺はこの井戸から始まった 反共プロパガンダ今も 「共産党の裏切り」博物館

 東ジャカルタ・ハリム空港の南、テーマパークのタマンミニの北隣に「パンチャシラ・サクティ」記念碑と「共産党の裏切り」博物館がある。見学に訪れる小中学生たちが興味深そうにのぞくのは、枯れた小さな井戸。1965年に発生したインドネシア共産党(PKI)系将校によるクーデター未遂とされる「9.30事件」で、殺害された陸軍将校たちの遺体がこの井戸に投げ込まれ、50万人以上を巻き込んだといわれる「赤狩り」の爆心地となった場所だ。 
 65年9月30日深夜から翌1日未明にかけ、PKI系将校らが陸軍の高級将校7人を襲撃した。将校らは当時空軍基地だったハリム空港に本部を設置。空港南郊にあったこの井戸にアフマド・ヤニ中将らの遺体を遺棄した。
 事件後、スカルノの容共路線を否定し、反共へと舵を切ったスハルトは井戸を中心に記念碑と博物館を建設。博物館は対蘭独立戦争当時から73年の「残党壊滅」までPKIに関する事件を34のジオラマで再現する。
 ジオラマで描かれるPKI党員はある場面では憤怒の形相で人を襲い、別の場面では警察官の首を締め上げる。インドネシア語と英語の解説文もPKIの悪辣ぶりを強調する。冷戦当時の反共プロパガンダがそのまま残っている。
 井戸には今も小学生や中学生が社会科見学に訪れる。生徒は恐る恐る井戸をのぞき込み、携帯電話やカメラで写真を撮る。
 近隣の第3ジャティ・マクムル小学校から5年生31人を引率して訪れた教員のイダ・ヌルサンティさんは「座学だけでなく博物館の見学も通じて事件を教えている」と話す。
 事件については「家族に軍人がいるから政府の言うことが全て正しいわけでないことぐらい知っている。子どもたちには本や映画などからも情報を得てほしい」と強調する。人々がスハルト時代のプロパガンダを真に受ける時代はすでに終わっているようだ。(田村隼哉、写真も)

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