ガムランで音楽交流 各国の留学生が創作 バリの「ナルワストゥ」
華やかな音色が人々を魅了し、国内外で多くの作品が創作されてきたバリのガムラン。バリ州サヌールのグループ「ナルワストゥ」には、外国人留学生をはじめ、多様な背景を持つ参加者が集まり、バリ人芸術家らと音楽・舞踊の共同制作に励む。バリ芸術祭参加に向け、それぞれの文化を生かして新しい作品を作り上げたことは、宗教・文化の違いを越えて互いを理解し合う試みでもあった。
ナルワストゥ参加者の出身国はチェコ、ニュージーランド、日本、英国など12カ国にわたる。その多くがインドネシア政府の支給するダルマシスワ奨学金を得て、インドネシア芸術大学(ISI)デンパサール校でバリの芸術を学ぶ外国人留学生だ。バリに来て初めてガムランや踊りを始めた人など、経験はさまざまだが、芸術が好きな気持ちは共通している。
バリでガムラン音楽は宗教儀式など、生活のあらゆる面に欠かせない。ガムラン奏者は幼少時から地元のバンジャール(村組織)で練習を重ね、演奏技術を身につける。習得には長い年月を要するガムラン音楽だが、「コテカンと呼ばれる、二つのパートを組み合わせて一つのメロディを作る奏法など、参加者らは短い期間で多くを学んだ」と、ナルワストゥで指導に当たるイ・ワヤン・ラジェグさんは評価する。
ナルワストゥのリーダー、ジョナサン・ベイリーさんは、共同制作の過程から、文化・宗教の違いを越えて互いを理解する場を作りたいと話す。参加者らの多様な文化背景を生かしたガムラン音楽・舞踊の創作に取り組んだのはそのためだ。
12日に参加したバリ芸術祭では創作曲6曲を披露。うち5曲は、ナルワストゥに参加する留学生の一人で、ピアニスト・作曲家のフルヤ・ウチャノックさんによるものだ。イギリスの小説家C・S・ルイス作「四つの愛」をテーマに、フルヤさんが生まれ育ったトルコの伝統音楽で典型的な8分の9拍子のリズムを取り入れた曲や、エリック・サティの「グノシエンヌ」をアレンジした曲など、同じガムランを使用しているとは思えないほどの多彩な音色を作り出した。
バリ人演奏家たちの提案を柔軟に取り入れた一方で、サティの曲を初めて耳にしたバリ人演奏家らは「別の世界の音楽だ」と思わず口にした。
フルヤさんによると、サティを取り上げたのは、1889年にパリで開催された万国博覧会で聴いたガムランに、大きな影響を受けた作曲家だという。それから100年以上の月日が経った現代のバリでナルワストゥが作り上げた作品に、会場に集まった観客は惜しみない拍手を送った。 (宮平麻里子、写真も)