【じゃらんじゃらん】バリの棚田を支える 高度な水利システム バリ島タバナン スバック博物館
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産候補に上っているバリ島タバナン県ジャティルィ村の棚田。どこまでも続く緑の棚田は見るものを圧倒するが、こうした大規模な棚田を可能にしているのが、川から引いた水が棚田のどの部分にもまんべんなく行き渡るよう機能している「スバック」と呼ばれるバリ独特の水利システムだ。バリの「米蔵」であるタバナンに、世界で最も効率的な灌漑(かんがい)方法の一つと評されるスバックを説明した博物館があると聞いて行ってみた。
スバック博物館はデンパサールから北西へ約1時間、タバナン市街地の中心に近い広大な敷地内にある。「タバナン県が、インドネシア有数の優れた文化遺産であるスバックが永続することを願って1981年にオープン」とパンフレットには書かれているが、30年も経っているとは思えないほど管理が行き届いていた。
展示物はそれほど多くない。また、よほどの興味がなければそのまま通り過ぎてしまう地味なものだ。しかし来館者は私一人だったにもかかわらず、スタッフのアグスさんが丁寧に説明してくれたおかげで、スバックがバリ人の生活を支えてきた優れたシステムであることがよく分かった。
スバックとは宗教行事を含めた稲作にまつわるすべての活動を取り仕切る組織の呼び名でもある。一つのスバックは50から150の農家からなり、近隣のスバックと協力し、川からの水がダム、トンネル、水路を通って個々の水田に平等に行き渡るように調整。民主的に選ばれたリーダーが定期的に加入者を集めて会合を開き、遅れて来た人には遅れた時間に合わせて罰金が科せられたそうだ。他にも約束事や規制が細かく設けられているが、行政機関が用意した中央集中的なシステムではなく、農民自身が長い歴史の中で完成させたものだ。
「これは水の分配方法やスバックの加入者が守るべきことなどが書かれたもの。私には読めませんが」とアグスさんはロンタル(オウギヤシ)の葉に刻まれた丸っこいバリ文字を示した。バリでは9世紀ごろにはすでに複雑なスバック・システムの下で稲作が行われていたそうだ。
展示物にはそれぞれの農作業を行う上で「最良の日」を示した古代のバリ・カレンダーや伝統的な農機具もあった。建物の外に出ると、水源からの水がダムに貯められ、水路を通って田んぼに行き渡る様子が分かる小規模なスバックが作られていた。
スタッフの案内はインドネシア語だけだが、アグスさんによれば来館者の多くは旅行案内のウェブサイトを通じて知ったドイツやフランスからの観光客だそうだ。
「スバックは、加入者と神、加入者同士、そして加入者と環境が調和のとれた関係を保つことが人生に繁栄をもたらすという古代ヒンドゥーの哲学に基づいています。博物館はバリ人の誇りであるスバックを知る良い機会。外国人、インドネシア人を問わず大勢の人に来てもらいたいです」
バリで最も美しい風景の一つとして名高いジャティルウィの棚田は博物館から北へ約20キロのところにある。まず博物館に立ち寄れば、棚田がさらに特別なものに見えるはずだ。
◇スバック博物館
住所:Jl. Gatot Subroto Sanggulan
開館時間:月曜ー土曜 8:00ー16:30、金曜 8:00ー12:30
入館料:5000ルピア
閉館日:日曜・祭日
連絡先:0361・810・315