【デジタル羅針盤】 欲しいのは今、ここで
音楽、映画、ゲーム、書籍などのダウンロード購入が一般化して、消費のスタイルは大きく変わりつつあると思う。
繰り返し書いていることだが、海外居住者にとって日本のものが、日本にいるのと同じ価格で、即座に入手できるのは本当にありがたいことだ。
一方で、その場でその瞬間に購入することが当たり前になったせいで、待つことができなくなったとも感じる。
電子書籍は音楽などに比べ、品揃えが不十分で、欲しいと思った本が電子化されていない場合も多い。そういう場合に紙の本を購入し、送ってもらうのかといえば、大抵の場合、そうでもない。
仕事の都合で必要なものなどを除けば、この本はあくまで今読みたいのであって、今、手に入らないのであればいらない、という気持ちが強く働き、他の電子化されている本を探すことが多い。
海外に住み、気軽に和書のある書店に寄れないという事情があるにしろ、一般論としても娯楽やサービスのオンデマンド化は進み、それに応えられないサービスの退潮は明らかである。
テレビは分かりやすい例で、番組の側に視聴者が時間を合わせるメリットがない。新聞も危うい。毎朝六時に届く新聞は、五時半に読みたいと思う人をカバーできない。その人は別の情報源を探すだろう。
日本語およびマンガの学校を経営している筆者も、授業のオンデマンド化の是非について考えざるを得ない。
むろん、授業を撮影した映像教材は珍しいものではないが、教師との双方向性に欠け学習効果に劣るため、多くの支持を得ていないのが現実だ。
だが、日本語にマンガという、大半の人が必要に迫られてではなく、趣味的に勉強している分野で、いつまでも時間割に合わせて渋滞の中、来てくださいというのが通用するかは怪しい。
では、どうするかといえば二つに一つしかない。うまく顧客が求める形でオンデマンド化するか、時間や距離の障害を乗り越えてでも来たいと思う授業を提供するかだ。
教育に限らず、今後十年で多くの分野に突きつけられる課題であり、今から試行錯誤が必要なのではないだろうか。(IkuZo!日本語・マンガ学校校長、元じゃかるた新聞記者 福田健太郎)