秩序失った現代世界 「スレンダン・メラ」上演 ガリン監督新作舞台劇
インドネシアを代表する映画監督ガリン・ヌグロホ氏の舞台劇最新作「スレンダン・メラ(赤いショール)」が13、14の両日、中央ジャカルタのタマン・イスマイル・マルズキ(TIM)の大ホールで上演された。ジャワの音楽・舞踊を中心に、インドネシア各地の文化も取り入れた約100分間の舞台に、会場に詰めかけた観客は魅了された。
ヒロインの踊り子スリ・レデックは、夫レデック氏の一座に見世物として飼われている猿のハヌマンを憐れみ、スレンダンを掛ける。一緒に踊るだけでなく、ここから出ようとの誘いだ。
だがスレンダンは秩序を失った世界への誘惑でもあった。やがて人間が動物のように、動物が人間のように振る舞いはじめ、何もかもが本来の役割を失ってしまう。スリ・レデックは次第に暴力的になる夫から心が離れ、人間的な性質を示し始めたハヌマンに引かれていく。
ヌグロホ氏は2005年、舞踊・音楽などジャワの芸術を融合させた歌劇形式で、古典ラーマーヤナの物語を描いた映画「オペラ・ジャワ」を制作した。今作はその舞台劇版3部作「オペラ・ジャワ」の最終作で、一連の作品の集大成にあたる。秩序を失った現代世界を描き、欲望にまかせた人間の行いが自らの破滅をもたらすとのメッセージを込めた。
作品の持つメッセージ性を支えるのが出演者の高い技術だ。ガムランの生演奏に合わせて切れのある踊りを披露した役者が一転、澄んだ歌声を響かせる。ジャワの芸能を中心に、多様な文化の踊りや歌を学んだという。
国内各地でドキュメンタリーなどの作品を作ってきたヌグロホ氏。今作では、西スマトラのミナンカバウや北スマトラのニアス、パプアの文化を取り入れた。各地の文化をジャワ文化と融合できると確信していたという。
上演後には、ホール外に設置されたボードに、公演成功を祝うメッセージを書き込む観客が続いた。中央ジャカルタの小学校教諭サイフルさん(27)は「歌や踊りで、主題にどんどん引き込まれた。人間の行いが自然破壊につながるという問題は世界各地で見られるもの。グローバルな問題をジャワ文化を通じて表現したところが気に入った」と語った。(宮平麻里子、写真も)