ジャワ海に水上バス 洪水被災者対象に就航 バス通勤2時間半が30分に
ジャカルタ北部のジャワ海に面するマルンダ〜ムアラ・バル間を結ぶ公共水上バスが先月就航した。ジャカルタ特別州政府は、1月の大洪水の被災地区からマルンダ州営団地へ移住した低所得者を対象に、インドネシア最大の漁港のあるムアラ・バルへの通勤通学の交通手段を提供。首都圏で未開発だった水上交通を試験的に導入し、今後は沿岸部の河川に新路線を開設していく方針だ。水上バスに乗船し、乗客たちの声を聞いた。
水上バスの離発着所は、近年建設されたばかりのマルンダ州営団地とジャカルタ漁港として知られるムアラ・バルの2カ所。午前7時にマルンダを出港してムアラ・バルへ、午後4時半にムアラ・バルからマルンダに戻る。約17キロメートルの航路の所要時間は約30分。定員30人のボート2隻で、それぞれ乗組員5人、乗客25人を乗せる。
午後4時ごろ、ムアラ・バルの波止場へ行くと乗客が集まり始めていた。会社勤めの人が多く、漁港には横浜や築地で働いていた人もいる。日本人を見て日本語で「アリガト」「オツカレサマ」と話しかけてきた。
「搭乗者を確認するから、名前を名乗ってから船に乗ってくれ」。出発時間が迫り、乗組員が乗客に呼びかける。現在の乗客は、洪水で冠水した北ジャカルタ・プルイット貯水池周辺の低所得者層の住民たち。被災地から団地へ避難し、そのまま移住した人々が乗客として登録。運賃は無料だ。
約20分ほど遅れて午後4時50分に出発した。10分ほどして、海岸から数百メートル離れた海上に出ると揺れが激しくなる。スピードも早く、遊園地の水上アトラクションのよう。
それでも乗客の表情は明るい。高校生のアフィダさん(17)は「悪路を走るバスに慣れているから平気」と微笑む。バスだと、アンチョールやコタなど渋滞が慢性化する地区を通るため、片道2時間半はかかる。渋滞知らずの海路なら30、40分で着く。
30代男性のムシム・フジャンさんは「船の本数をもっと増やしてほしい」と話す。通勤時間が往復で1日計4時間短縮できるなら、運賃が無料から1万ルピアになったとしても利用したいとの声も聞かれた。
水上バスがインドネシア最大の港であるタンジュンプリオク港を通過する。貨物を積んだタンカーやコンテナの山。木造の漁船もすれ違う。活気のある港湾周辺の風景が広がる。
目的地のマルンダに到着した。離発着所は閑散とした波止場で露店1軒しかない。そこへ船の乗客を目当てに、20〜30台のオジェック(バイクタクシー)が集まり、次々に乗客を乗せて州営団地に向かう。5〜10分で着くという。
船を操縦していたマウラナさん(32)は「水上バスは試験運転中だが、住民の関心は高い。もっと団地入居者へ周知して本数も増えれば、利用者も多くなると思う」と話した。
これまでジャカルタ特別州のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)知事は「水上バスの路線を拡充する」と明言。年内にもマルンダ〜ドゥレン・サウィット、マルンダ〜アンチョール、アンチョール〜ムアラ・バル、ムアラ・バル〜アンケの4つの路線を就航するとしている。
深刻化する渋滞を緩和するための方策の一つとして位置付け、MRT(大量高速交通システム)やモノレール、主要道の専用車線を走り、高速道路にも乗り入れるトランスジャカルタなど、複合的に公共交通機関を整備していくとの方針を示している。(赤井俊文、写真も)