PKS党首を逮捕 清新イメージに打撃 イスラム政党凋落加速も 現職トップで異例
汚職撲滅委員会(KPK)は30日深夜、収賄の疑いで国会第4党でイスラム保守系政党の福祉正義党(PKS)のルトフィ・ハサン・イスハック党首(51)を、南ジャカルタ・パサールミングの党本部で逮捕した。現職の主要政党トップが汚職で逮捕されるのは初めてで、クリーンなイメージで支持を広げてきたPKSにとって大きな打撃となることは避けられない。近年、勢力が減退傾向にあったイスラムを基盤とする政党の支持離れがさらに加速するとの見方も上がっている。来年には5年に1度の総選挙・大統領選挙を控えており、今後も政局絡みの騒動が続く可能性がある。
ルトフィ容疑者は、牛肉輸入事業に絡み、部下を通じて賄賂10億ルピア(約930万円)を受領しようとした疑い。
KPKは29日夜、同容疑者の関係者とみられる人物が中央ジャカルタのホテルで牛肉の輸入業者から受け取った10億ルピアを所持していたところを現行犯逮捕した。ルトフィ容疑者に賄賂は届いていないが、KPKは「容疑者に断定できるだけの十分な証拠を持っている」としている。
ルトフィ容疑者は国会第1委員会(外交・国防・情報)委員で、牛肉輸入事業とは直接関係ないが、連立与党のPKS党首としての地位を利用し、輸入許可を発行する商業省、輸入量などを指定する農業省に圧力を掛けるなどし、業者に賄賂を要求した疑いが持たれている。
ルトフィ党首は同日、党幹部を通じ、汚職捜査に集中するため党首職を辞任すると発表した。PKS側は当初、来年の選挙のほか、PKS擁立の現職候補が出馬している西ジャワ州知事選が2月にあることから「政治的攻撃」とKPKの党首逮捕を非難したが、ヒダヤット・ヌルワヒッド元党首は31日、早期の党首交代で収束を図る方針を示した。
識者からは、市民はPKSに対して厳しい見方を持つとの見方が上がっている。
民間調査機関スグン・スルヤディ・シンディケイテッド(SSS)のトト・スギアルト氏は「PKSはもはやクリーンな政党ではないという世論が形成されるだろう」と指摘。
ジョクジャカルタ・ムハマディア大学のバンバン・チプト氏は、PKS以外のどの政党も汚職事件への関与者が出ており、「これでどの政党も『われわれが最もクリーンな政党』とは主張できなくなった」と指摘、「来年の選挙が近づくにつれ、より多くの問題が持ち上がってくるだろう」と分析した。
国内第2のイスラム団体ムハマディアのディン・シャムスディン議長は逮捕について「非常に驚いている」と強調。汚職がイスラムの教義に反する行為であることから、「イスラム政党がイスラムの教義と一体となっていないことの表れだ」と述べ、イスラム政党に対するムスリムからのイメージに影響を与える事態だと危機感を示した。
PKSは、スハルト政権崩壊後の98年7月にイスラムの若手活動家が中心となって設立した正義党が前身。イスラムの原則に忠実な路線を示し、清廉さや規律正しさを強調するなど既存政党とは異なるイスラム政党として都市部を中心に支持を集め、2009年選挙では57議席と、イスラム政党ではトップの議席数を獲得した。
2014年選挙では「3大政党入り」を目標に掲げ、イスラム保守のイメージを抑えて支持層の拡大を狙っているが、近年は勢いに陰りが見えており、昨年のジャカルタ特別州知事選挙ではヒダヤット元党首を擁立したが惨敗した。(関口潤)