就職戦線では苦戦? 「日系企業で働きたい」 日本語専攻の大学生

 インドネシアの大学で最終年度を終えた学生が就職活動の季節を迎えている。日本と異なり、卒業が確定してから就職先を探すのが一般的なインドネシア。好景気が続き、新卒採用の学生に対する需要も高まる中、人気が根強い日系企業を目指す学生は依然多いが、特にその傾向が顕著な日本語専攻の学生は意外と苦戦しているようだ。(加藤倫子)

 「日本語が使える仕事を中心に、現在3、4社に応募書類を送った」と話すのは、西ジャカルタにある私立大学の日本語学科に通うユマニラさん(21)。すでに卒業論文を提出し、卒業が確定した。卒業式は11月だが、現在就職活動の真っ最中だ。
 企業の求人情報が集まったインターネットサイトを見たり、知人や先輩の紹介を受けたりして応募先を探す。友人とも情報交換し、活動状況を報告しあっているという。
 日本と比べ、インドネシアの大学生は、大学で学んだことを仕事に生かしたいという意識が強い。ユマニラさんも「大学で学んだことを無駄にしたくない」と、日本語を使って仕事ができる日系企業に書類を送っている。「結果はまだ分からないけれど、チャンスがあればさまざまな企業に応募していきたい」と意気込んだ。
 日本の慣習や企業風土に関心があることを理由に、日系企業を志望する学生も多い。南ジャカルタにある私立大学の日本語学科4年生、ムティア・プリシエラさん(22)も卒業式を控え、今月から就職活動を開始する予定だという。目指すは「憧れ」の日系企業。「日系企業は日本の文化が根付き、時間をしっかり守るなどの規則が厳しい。日本人のような規律を身につけたい」と話す。
 日本語を専攻した学生の日系企業への就職熱は高まっているが、実際には手が届かない学生が多いようだ。ビナ・ヌサンタラ大学日本語学科では、昨年卒業した約70人の学生のうち、日系企業に就職したのは把握可能な限りでは3人ほど。志望者は多いが、実際に就職できる学生は少ない。思うように就職が進まない理由のひとつとして、企業が新卒者に求める能力と、日本語専攻の大学生が身に付けた能力との乖離(かいり)が挙げられる。
 大手日系企業の多くは日本語能力をそれほど要求していない。日系建設会社の人事担当者は「日常業務の会話は英語。日本語が必要な業務もあるため、日本語が堪能な新卒者を採用する場合もあるが、大抵は日本語能力以上にその人の専門性を重視する」と話す。大学の専攻は経済学や会計学、法学などで、英語や日本語が堪能な大学生は珍しくなく、日本語のみを専門としてきた大学生の優位性は高くない。
 一方、工場などを有する日系企業では、日本語能力を重視することも多い。生産設備を有するメーカーなどは、現地作業員と日本人社員との意思疎通のために、通訳として日本語専攻の大学生を採用したいという意向を持っているという。
 人材紹介会社JACインドネシアの小林千絵ディレクターは「これまで、日系企業がインドネシア人に求めるのはマネジャークラスの経験者だったが、最近では日本語が話せるのなら新卒でも問題ないという求人も多い」と説明する。だが、企業が求める日本語能力水準を満たす学生はなかなか見つからないという。
 アル・アズハル大学日本語学科のサンドラ・ヘリナ学科長は「われわれの学科では、日本語能力検定の3級(現N3レベル)合格を卒業要件としているが、企業が求めるのは2級。しかし、在学中に2級に合格する学生はわずか。また、仮に2級に合格しても実際にビジネスで使える日本語能力を身につけている人は少ない」と憂慮する。
 同学科長は「真に高い日本語能力を備えれば、日系企業だけでなく、(日本人を顧客としてとらえている)国内企業にも必要とされる人材になれる」と指摘。日本語能力を中心に文化や習慣などへの理解も一層深めることができるような取り組みを進めていく方針だ。(インターン・名古屋大学大学院博士前期課程2年)

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