「MPAで協力継続を」 日イ閣僚級戦略対話 経済、安保分野など協議

 十三日夕にジャカルタ入りした玄葉光一郎外相は十四日、前日に続きマルティ・ナタレガワ外相と第三回日イ閣僚級戦略対話を行った。戦略対話は経済、防災、安全保障、気候変動などの幅広い分野にわたり、二国間の経済分野では両国の官民が一体となって取り組んでいる首都圏投資促進特別地域(MPA)構想で引き続き協力していくことで一致。二国間を越えたアジア・太平洋地域の協力関係については、海洋の安全保障などで協議し、域内の平和構築に力を入れていくことを確認した。
 主に二国間の協力関係促進を話し合った十三日の対話では、二国間の経済関係について日本のインフラ輸出などを協議。玄葉外相は日本企業が関与するインフラ案件の代表例として、今月七日に電源開発(Jパワー)と伊藤忠、地場系石炭開発の事業会社が国営電力会社PLNと長期売電契約を結んだ大型IPP(独立電力事業者)の案件の中部ジャワ石炭火力発電所を挙げ、今後も同様に日本企業がインドネシアのインフラ開発にかかわっていくことを望んでいると伝えた。
 日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士受け入れ事業について、マルティ外相は、野田佳彦首相が先月二十三日に行なった国連総会の演説で、インドネシア人の看護師が被災地で献身的な活動を行ったことを紹介したことに対して感銘を受けたことを伝えた。低い合格率や帰国した候補者の処遇などの課題が上がっている同事業については今後、両国の間で、制度などの改善を行っていくことで一致した。
 また、防災分野、気候変動、再生可能エネルギーの開発などでも協力を深めることで同意した。
■海洋の安定でも協力
 十四日には、アジア・太平洋地域における課題などについて話し合い、地域の安定と平和で協力することでも一致した。玄葉外相は、特に海洋は各国の「公共財」と指摘し、安定した平和な海にすることの重要性を強調。海洋に関する共通のルールを話し合う多国間の枠組みを作ることを、来月バリで行われる東アジアサミット(EAS)で日本が提案することで調整していることを明らかにした。マルティ外相は日本の方針に理解を示し、議論を深める方針を示した。
 ASEAN加盟国のフィリピンやベトナムは、南シナ海で海洋進出を強める中国と領土・領海問題で対立しており、同様に東シナ海で中国と領有問題を抱える日本は、領海問題などを解決するルールなどを規定する多国間の枠組みを作ることでASEANとの連携を深めたい考え。
 玄葉外相は「海洋という公共財のためのルールを開かれた場で作ることが各国にとって良いこと」と述べ、領有問題の紛争解決や安全な航行の確保のほかに、救難救助や海賊対策、環境保全などのルールも新たな枠組み内に盛り込む方針を示した。
 中東、ミャンマーなどの民主化に向けた協力も引き続き進めていくことで一致。玄葉外相は、これまで両国がミャンマーの民主化を後押ししてきたと言及し、さらなる関係強化のために、ミャンマーの外相を今月二十―二十二日に賓客として日本に迎えると明らかにした。
 インドネシアが国交を有する北朝鮮に対しては、拉致問題や非核化などに関する日本の意見を伝えた。
■PPIJとも会食
 十四日午前にはASEANのスリン・ピッツワン事務局長と会談した。玄葉外相はスリン事務局長の発案で六月にスリン事務局長やASEAN各国の青年ボランティアが東日本大震災の被災地で支援活動を行ったことについて謝意を表明した。
 同日午後には、大統領顧問会議委員を務めるインドネシア日本友好協会(PPIJ)のギナンジャール・カルタサスミタ会長主催の昼食会に出席。ファデル・ムハンマド海洋水産相、PPIJのラフマット・ゴーベル理事長らが同席する中、玄葉外相はギナンジャール会長の長年の日イの友好関係構築への貢献をたたえた。ギナンジャール会長は、元日本留学生が中心となって設立したダルマ・プルサダ大学で、日本語やものづくりの教育を積極的に行っていることを紹介。両者は同大での人材育成が日系企業の進出にも重要であることで一致した。
 玄葉外相は同日夜、マレーシア、シンガポール、インドネシアの東南アジア三カ国の歴訪の全日程を終え、帰国の途に就いた。

◇「日イの絆の象徴」 感謝のDVD手渡す 玄葉外相がマルティ外相に
 「絆の象徴の一つとして差し上げたい」。玄葉光一郎外相は十四日、日イ閣僚級戦略対話後の記者会見で、一枚のDVDをマルティ・ナタレガワ外相に贈った。DVDは三月の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県気仙沼市にある気仙沼小の児童たちがインドネシアへの感謝を示すため、伝統楽器アンクルンで「さくらさくら」を演奏した様子を記録したもの。
 震災直後から、インドネシアでは各地で草の根から政府レベルまで幅広い層が日本を支援、激励する動きが広がった。ユドヨノ大統領夫妻は六月、気仙沼を訪問、被災者らに声を掛けた。また視察の中で訪れた気仙沼小では、児童たちにアンクルンを寄贈した。
 DVDを受け取ったマルティ・ナタレガワ外相は、二〇〇四年十二月のスマトラ沖地震・津波などインドネシア国内で発生した震災に触れ、「いつも日本が支援してくれた」と日イがさまざまな形で友好関係を築いてきた歴史を振り返り、「DVDには日本とインドネシアの友好関係の一部が記録されている」と笑顔で述べた。玄葉外相は「インドネシアの人たちに、あらためて感謝を伝えたい」と締めくくった。

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