経済成長楽観論に警告 海洋開発や安全保障 日本の戦略的役割を CSISのリザル理事長
シンクタンクのインドネシア国際戦略研究所(CSIS)の創立メンバーの1人・故ハディ・スサストロ氏が、平城遷都1300年記念第1回アジアコスモポリタン賞のメモラブル(特別)賞を受賞した。18日に奈良県で開かれる授賞式に代理出席するCSISの現理事長、リザル・スクマ氏に日イ関係やアジア地域の諸問題について話を聞いた。(配島克彦、小塩航大、写真も)
―今回、CSIS創立者のハディ氏が、奈良県とASEAN(東南アジア諸国連合)東アジア経済研究センター(ERIA)が主催する賞を受賞した。
◆リザル氏 ハディ氏は、私が直接指導を受けた先生でもあり、故人の代理として授賞式に出席させていただくことは光栄だ。政治家が多い創立メンバーの中で、唯一、経済の学術的研究を行っていたのがハディ氏だった。
CSISは(故スハルト元大統領のブレーンだった)スジョノ・フマルダニ将軍(大統領秘書官)らが中心となって創立した。日本との懸け橋だったスジョノ氏の時代から、CSISと日本の関係は緊密で、日イの経済関係構築やERIA創設などにハディ氏が果たした役割は非常に大きい。
■海洋国家の連携を
―日本ではインドネシアに対する評価が高まっている。
◆インドネシアの経済成長に対する楽観的な見方も出ていると聞いている。日本の中小企業のインドネシア進出も活発化している。経済統計に基づいた予測は確かに楽観できる部分もあるが、法確立や労使、汚職、政治的側面なども考慮していく必要がある。数値に出てこない不確定要素は多い。投資先や開発地域も首都圏は過密化しており、別の地方へと目を向ける時代が来ている。
歴史を振り返ると、(ジャワで勃興した)マジャパヒト以来、王国が開発したのは内陸部ばかり。これからは海洋王国として栄えたスリウィジャヤを参考にすべきだ。私はアチェ出身だが、アチェ王国は(侵略を図った)ポルトガルに勝ち、英国やトルコと連合を組んだ。英国には使節を駐在させるなど、早くから海洋王国として栄えていた。
今後、インドネシアは海洋資源を生かした経済発展のモデルを作るべきだ。世界の海洋3大国は日本、フィリピン、インドネシア。以前、日本外務省を訪れた際、林芳正参議院議員(元防衛相)に海洋国家の連携を強化すべきだと提案し、関心を持っていただいたことがある。
■明確な反応が必要
―東アジアや東南アジアでは領土をめぐる対立が起きている。
◆日本は歴史問題もあり、旧来の枠に束縛されているようだ。しかし、中国、インドの発展を見るまでもなく、すでに時代は変わっている。よく対米関係を引き合いに「日本は軍事力を持つ通常の国家として振る舞えない」などと説明することがあるが、もはや米国でさえ、現状以上のことをすべきだと日本に要求しているように見える。
私が最も危険だと思っているのは、東南アジア諸国で「日本は衰退し、中国が興隆する」「米国の存在は依然大きいが、経済危機で衰退に向かうだろう」との見方が強まっていることに対して、日本政府は明確に反応していないことだ。
東南アジア諸国にとって、日本は非常に重要なパートナーであり、日本が戦略的な役割を担うことが東南アジアの未来に必要だ。日本は中国の反応を気にしすぎている。海上安全保障や経済連携などで自ら戦略を示していく必要がある。
◇リザル・スクマ氏
パジャジャラン大卒。ロンドン大(LSE)で国際関係学博士号取得。2005年、インドネシア人で初めて中曽根康弘賞を受賞。09年、米国の外交専門誌「フォーリン・ポリシー」の「世界の思想家100人」に選ばれる。初めて訪れた外国は大学時代の日本。毎週、夫人がブロックMの日本食スーパーで食材を購入し、家族で日本食を楽しむ親日家でもある。