ムスリム受け入れ 準備や心構えは? 観光促進へ講演会 「適切な配慮と対話を」
東南アジア諸国連合(ASEAN)貿易投資観光促進センター(日本アセアンセンター)は28日、ASEAN地域からのムスリム観光客受け入れについての情報提供を目的とした講演会を、東京都港区の同センターで開いた。インドネシアやマレーシアなどムスリム人口の多い国からの観光客増加が見込まれているが、現状では受け入れ体制を整えるために必要な食事や習慣などの情報や配慮が広く知られていない。同センターはセミナーを今後も複数回開催し、旅行会社や航空会社、宿泊施設、飲食店など観光業に関わる関係者や地方自治体の担当者に向け、基礎的な知識から実用的な情報を提供していきたい考えだ。(岡坂泰寛)
セミナーでは、同センター観光交流部の渕上奘慶部長代理が「ASEANにおけるムスリムについて」、現代位相研究所の堀内進之介首席研究員が「イスラム市場の可能性―ムスリムを受け入れるための配慮について」と題した講演をそれぞれ行った。
渕上氏は講演で、ASEAN地域における昨年のムスリム人口は全人口の約4割に当たる2億5500万人で、世界のムスリム人口の12・9%に相当すると指摘。世界最大のムスリム人口を誇るインドネシアでは、その約8割を占める2億1千万人を有すると説明した。
渕上氏は、ASEAN地域からのムスリムの訪日が年々急増しており、宿泊業者や飲食業者など訪日受け入れ側のイスラムに対する理解が重要と強調。「イスラムの世界では、すべてがイスラム法によって規定されている」と話し、食事や礼拝、宿泊、医薬品・化粧品、服装、名前、冠婚葬祭、女性とスポーツなどについて幅広く解説した。
食事では、ムスリムが食べることができる食品をハラル食品、食べられない食品をハラム食品と呼ぶことや、各国がそれぞれハラルの基準を設けていることを解説。ハラルとハラムでは扱う調理器具や食器も分けなければいけないため、その基準を厳格に適用すると、ムスリムは日本食を食べることができないという原則を説明した。また、医療品や化粧品についても、豚に由来する酵素やタンパク質が含まれている商品は使用ができないと語った。
堀内氏はムスリム観光客に対する配慮として、情報を開示することや、それぞれのムスリム観光客と直接対話をして、最終的な判断を任せることが重要と強調。料理に使用している調味料や食材などの情報を伝えたり、ムスリムが礼拝を行う聖地メッカのカアバ神殿の方向「キブラ」の表示をしたりすることが望ましいとした。
一方、ムスリムへの配慮として宿泊する部屋に礼拝用のマットを設置している施設もあるが、場合によってはムスリム側が礼拝を強要されていると感じることもあると指摘。そうなることを防ぐため、マットは受付で自由に借りられるようにするなど、柔軟な対応と工夫が必要だとした。
観光ツアーの日程調整における1日5回の礼拝に対する配慮では、「礼拝の時間」というような表記の枠を設けるのではなく、その時間帯を「自由時間」とすることで、ムスリム観光客が束縛感を感じないような方法を紹介。堀内氏は「過剰な配慮がときには不快感を与えることがある」と説明した。
セミナーには、ムハンマド・ルトゥフィ駐日インドネシア大使や同センターの大西克邦事務総長が出席。全体の参加者は約100人に上った。