【火焔樹】 私の理想と使命
オリンピックでメダルを取った選手のインタビューを雑誌で読みながら、母の言葉を思い出した。「人はみんな赤い血が流れているんだよ。肌が白くても、黒くても、黄色でも、一皮剥けばみんな同じなんだよ」。その言葉は、オリンピック選手が自分のため、支えてくれた家族のために戦ったという話と重なった。
私は以前から、オリンピックは国対抗ではなく、国籍を問わず個人や有志の集まりの参加にし、国歌演奏の代わりに自分の好きな歌を歌い、国旗掲揚の代わりに家族や愛する人の写真、もしくは先祖代々の家紋を掲げて、国の要素は排除できればと思っていた。確かに国同士の対抗は盛り上がり、いい意味でのナショナリズムの高まりにつながるかもしれないが、皆国のために戦うという意識をどこまで持っているのかはいささか疑問であった。何より金メダルは頑張った本人に与えられるものだからだ。
突拍子もないこんな発想は世間に広く受け入れられはしないだろうが、国家同士のつながりを深め、最終的に平和な世界を構築する目的がオリンピックにあるというのなら、それを構成する人々が自由に入り交じって戦ったほうが、絆はより深まっていくと思う。あくまで理想であるが、到達不可能とあきらめてしまえば、世の中変わらないまま過ぎてしまう。
明日で生きていれば76歳を迎える母の数々の言葉を思い出しながら、私が抱える理想は母から受け継いだ貴重な遺伝子のたまものであると認識し、少なくともインドネシアと日本に関わる皆さんにはこれからも、異文化の狭間に潜む機微をお伝えすることが私の使命だと思いたい。そして、それを続けることにより、究極はインドネシアも日本も果てしない宇宙の中の小さな地球の一部に過ぎず、その意味で大きな差違はないということを、私を含めて多くの方々にわかっていただくことができたなら、うれしい限りである。(会社役員・芦田洸)