【選挙戦を追う―6党激突 2012年首都知事選?】 党支持層以外の広がりに苦慮 アレックス候補
空き地に現れた三つの特設テントに約千人の住民が集まった。くじ引きや無料医療相談のコーナーには人だかり。アレックス候補組が先月29日午前、演説会場に選んだ北ジャカルタ・プンジャリガンには、日本の夏祭り会場さながらの光景が広がっていた。
ゴルカル党が担ぎ出した現職南スマトラ州知事。会場では熱狂的な一部支持者とともに「3年で変化を実現する」と連呼する。高校や医療の無料化、渋滞対策など、施策に目新しさはないが、「(現職の)ファウジ候補はよくやっているが行動が遅い」と、対立軸を作りたい考えだ。
地縁のない首都での戦いに不安がなかったわけではない。会場間の移動中、「党から出馬要請を受け、決心に1カ月かかった」と胸の内を打ち明けたアレックス候補。ただ、政党別支持率の各種調査でゴルカルは首位。大型バス2台に報道陣約20人を引き連れて州内を巡る今、当初の迷いの影はない。
各地に張り巡らされた党のネットワークは強固だ。実際、演説会場に詰めかけた人のほとんどは、隣組や党組織が前日に動員した住民だった。アレックス候補は「ゴルカルには庶民の声を政治に反映させる経験と実績がある」と自信を見せる。
各陣営が重視し、今選挙で流行となった市民との対話には、アレックス陣営も無関心ではない。この日の会場には生活道路が入り組んだ会場を選択。道に迷ったタクシーを乗り捨て、ようやく会場にたどり着いた選対スタッフもいるほどだ。
ただ、カンプンを練り歩き、握手戦術で顔を売る他候補とは異なり、会場から車列に戻る途中に脇道にそれ、あらかじめ決められた地域代表と言葉を交わすにとどまるなど、交流は淡白にも見える。
「土地の水はけの悪さと、水道の水質をなんとかしてほしい」と訴えたムスタリ隣組長(64)。演説会場とは対象的に、やりとりを見守ったのは報道陣のほか、見物に集まった子ども数人だけ。アレックス候補は「南スマトラでも経験がある。なんとかしよう」と短く応え、車列に戻った。
午後の演説に選んだチリンチンの魚市場では、陣営の苦悩が垣間見えた。演説前に人気男性歌手のチャンディルさんがサプライズコンサート。若者を中心に約600人を熱狂させたが、スハルト政権時代からの党支持者のマルリさん(57)は「みんなが楽しめるのはいいことだが、早く演説を聞きたい」と話す。一方、「何かイベントがあると聞きやってきた」というレシーさん(35)は、歌手の歌声に上機嫌だったが、候補の名前はこの時初めて知り、投票先もまだ決めていないともらした。
2人の話から、組織の強みを維持しながら、党支持者層以外へいかに売り込んでいくかに苦慮する陣営の課題が浮かんで見えた。(道下健弘、写真も、つづく)
◇アレックス・ヌルディン
ゴルカル党、1950年、南スマトラ州パレンバン生まれ。スマトラ州知事。80年にトリサクティ大学、81年にアトマジャヤ大学をそれぞれ卒業。2002―07年に同州ムシバニュアシン県知事、07年から現職。
◇ノノ・サンポノ
1953年、東ジャワ州マドゥラ島生まれ。退役海軍中将。72年に海軍入隊。2003年にハン・トゥア大学水産学部卒業後、07年にボゴール農科大学大学院を終了。10―11年には捜索救助隊(SAR)隊長を務めた。