【選挙戦を追う―6党激突 2012年首都知事選?】 支持層拡大狙う PKSのヒダヤット候補
先月29日、記者が東ジャカルタ・プロガドゥンの市場に到着すると、福祉正義党(PKS)擁立のヒダヤット・ヌルワヒッド知事候補とペアを組むディディック・ラフビニ副知事候補が猥雑とした市場の一角にある食堂でご飯を平らげていた。
近くのバスターミナルからアンコット(乗り合いバス)を運転したり、屋台のバッソ(肉団子)を買い占め、集まった住民に配ったりするディディック氏。道中では行き交う住民一人一人と丁寧に握手を交わしながら、自らの投票番号の4番への投票を呼び掛ける。普段は大学で教える経済学者らしからぬ振る舞いは、PKSを支える高学歴の中間層以外からの支持を掘り起こすためのパフォーマンスだ。
イスラム政党であるPKSはスハルト政権が崩壊した1998年に設立された正義党(PK)が母体。学生運動から生まれた同党は既存の政党と異なる規律正しさやクリーンなイメージで都市部の中間層に支持を広げた。ヒダヤット氏は2003年から04年までPKS党首を務め、国会やジャカルタ特別州議会での勢力躍進の立役者となった。
同日、東ジャカルタ・ジャティヌガラの体育館でヒダヤット、ディディック両氏が出席して行われた集会には、数千人の支持者がキャンペーンカラーのオレンジに統一した服装で駆け付け、熱気に包まれた。98年の設立当時から党を支えるコアな支持層は現在も熱い支持を送る。
07年の同州知事選では各党が相乗りしたファウジ・ボウォ氏に対し、PKSは単独で候補を擁立。敗れたものの、40%強の得票率を獲得した。今回は他党が分裂して候補を擁立する中、「今回の選挙でも前回と同じように得票すれば、ヒダヤット組が勝利できる」と陣営は自信を見せる。
だが、PKSの勢いは下降気味。イスラム政党に対する支持率が低下しているという調査結果も出ている。これまでイスラム保守の支持を集めてきたPKSは開かれた政党への脱却を図っており、今回の選挙戦では軽快なキャンペーンソングで親しみやすさも強調している。
選挙キャンペーン期間前から各カンプン(集落)にポスターを大量に貼り付けるなど、コアな支持層の動員力は健在のPKS。低所得者層など従来の支持層以外に支持が広がるかどうかが、現職のファウジ氏や2番手を走る中部ジャワ州ソロ市長のジョコ・ウィドド候補を破る鍵となる。(小塩航大、関口潤、写真も)