生産中止の影響じわり 食卓から消えるテンペ
大豆価格高騰に抗議するテンペ製造業者のストライキの動きが広がっている。油で揚げたテンペ・ゴレンのほか、甘口ソースや香辛料で炒めるなど、家庭料理に欠かせない「国民食」。生産中止による流通量減少が庶民の生活を直撃し、食卓から姿を消しつつある。中央ジャカルタの下町で、騒動の影響を聞いた。
カンプン・バリにあるスリさん(60)の食堂。タムリン通りに隣接し、ビジネスマンでにぎわう店からは、24日を最後に、テンペを使ったメニューが消えた。27日、昼食をとりにやってきた会社員のアレックスさん(30)は「テンペ・ゴレンを食べようと思ったのに」とがっかり。代わりにナマズの唐揚げを食べていた。
テンペ・ゴレンは店一番の人気メニュー。スリさんは「毎日70人ほどが食べていた」と困り顔だ。「料理の味付けというよりも、慣れ親しんだ料理だから」と、人気の理由を教えてくれた。
安い・うまい・高栄養価の三拍子そろった食材の消失は、一般の主婦にとっても大きな関心事だ。
近くに住むリリスさん(52)は、ストのうわさを聞きつけ先週、約40センチ分のテンペをまとめて購入した。冷蔵庫の野菜室に大切に保管するテンペは半分になってしまったが、この日の夕食もテンペ・ゴレンを作るという。
もしテンペが今後なくなっても、鶏卵で代用するというが、「子どものころから毎日のように食べていた『インドネシアの味』」。やはり寂しさを感じるのが実情だ。普段は2万ルピア(約170円)のテンペで済ませていたが、しばしの別れを覚悟。今回は奮発して、3万ルピアの品を購入した。
リリスさんのような「幸運」に恵まれた住民は少ない。ここ数日、テンペにありついていない周辺住民がほとんどだ。
ガデスさん(29)も24日から食べていない一人。それまでは週に数回、切り分けられたテンペを購入し、毎週3回は食卓に供していたという。
月100万ルピアかける家族9人の食費は、少しでも安く押さえたい。「テンペはビタミンが豊富でタンパク源として重要。肉の方が食べたいけど、値段が高い」と話す。慣れ親しんだ味に加え、値段の安さが庶民の支持を集める理由と解説してくれた。
原料のほとんどが輸入大豆で、その9割以上を米国産に頼るテンペ業界。米国での大豆不作による価格高騰が今回の騒動の発端だ。政府は業者の要求を受け、暫定的に大豆輸入関税を撤廃する方針を決める対応策を打ち出した。
それでもガデスさんは「業者が原料を輸入品に頼るのはアメリカ産の大豆の品質がいいから。政府は国内産大豆の品種改良に力を入れるなど競争力を高める施策が必要だ」と、抜本的対策を求めた。