ルピア為替の安定
先月20日、インドネシア中銀がルピア政策金利の据え置きを決めた。これで2ヶ月連続の据え置きとなる。概ね主要金融機関のアナリストの予想通りでもあり驚きはなかったが、改めて利下げペースの鈍化が明らかになった決定とも言える。
今回の決定に際しての中銀からの声明文を見てみると、ルピアの為替レート安定に注力するとの部分で、前回10月の声明文に「短期的には」との表現が入っていたものが、今回11月分ではこれが無くなっている。トランプ政権誕生でドル金利が高止まる可能性が強まる中、ルピア為替の安定がもはや一時的な課題ではないことを中銀が認めた格好だ。
米大統領選の結果が判明した11月6日以降のアジア通貨の動きを見ると、対ドルでほぼ全面的に下落基調となっており、通貨安定はインドネシアに限った課題ではない。ただルピアは金利水準が相対的に高い分、国内景気への影響という意味での深刻度も相応にある。アナリストの中には、ルピアの年内の利下げは無くなった、来年の利下げも2回程度(0・5%)にとどまるという予想を示しつつ、これが更なる景気への圧迫要因になるのではとの悲観的な見方を示す向きも出はじめた。
先週、インドネシア中銀が主催した年次総会でのペリー中銀総裁のスピーチでは、マクロ経済の安定性と成長性の両方を実現する上で、金融政策と財政政策を含めた連携(シナジー)が重要とのメッセージが繰り返し強調されていた。少なくとも当面は中銀が利下げによる景気刺激への貢献が難しくなる中で、おそらくは財政政策への期待感も含んでいたのではと推測される。
いずれにせよ、ルピアの為替レートについては、しばらくは米国サイドの動向に左右される展開が続くだろう。ドル高圧力が強まるたびに中銀が為替介入を余儀なくされる展開が続くと考えられる。では、そもそもインドネシア側の努力で為替を安定化させる手立てはないものだろうか。
為替レートはさまざまな要因で変動するが、究極的には(自由相場制を採用している限りにおいては)各通貨の需給関係で決まる。一般的に為替市場は取引ボリュームで言うと機関投資家による証券投資などの売り買いが占める割合が大きいが(ルピア為替も機関投資家筋の売り買いがおよそ4割程度を占めると推測される)、このタイプの取引は、タイミングはともかく、どこかでポジションを手仕舞う(買い戻したり、売り戻したりする)傾向があるので、長い眼で見た需給関係はある程度ニュートラルになってくる。
一方、輸出入や配当金支払いなどの実需取引は、需給関係により直接的なインパクトをもたらす。これら実需取引の合計は、統計上は概ね経常収支で示されるが、インドネシアの場合、資源価格高などにより貿易黒字が拡大しない限りは、この経常収支が赤字基調、つまりルピア買いよりもルピア売りが多い状態にとどまる。経常収支の改善は中長期的な為替レートの安定に向けた最も本質的な解と言えよう。
経常赤字を縮小したりカバーしたりするのに貢献するのは輸出振興や投資受入れ促進だが、今のインドネシアにとっては、この両面で中国の存在感が強い(中国は輸出の2割強、直接投資の1〜2割を占める)。インドネシアにとって中国との経済関係は、ルピアの安定も含めたマクロ経済運営全般にも欠くことのできないピースになっていると認識すべきであろう。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)