BRICS

 インドネシア政府は先月、有力新興国で構成されるBRICSへの加盟意向を表明した。ジョコウィ政権下では、BRICS加盟を時期尚早として見送り、一方でOECDへの加盟に向けて動き始めていたので、ここでもプラボウォ新政権の独自色が打ち出された格好だ。
 BRICSは、元々は2001年にゴールドマンサックスのエコノミスト、ジム・オニール氏が経済的な影響力を増していた中国、ブラジル、インド、ロシアの4カ国の頭文字をとってBRICSと呼称したのがはじまりだ。2006年に当事国同士での非公式会合が始まり、その後、南アフリカを加えた5カ国の枠組みとして定期的に首脳会談を行うようになった。ここ数年は主には中国、ロシアの意向を反映して加盟国拡大を進め、今年はイラン、エチオピア、エジプト、アラブ首長国連邦が加盟。東南アジアからはタイとマレーシアから加盟の意向が示されている。
 ただBRICSの命名から20年以上が経過する中で、元々の4カ国の間だけ見ても政治体制はもとより経済発展の度合いや国内産業・貿易面での優先順位もかなりバラツキがでており、加盟国間の共通項はかなり限られる。新開発銀行(通称BRICS銀行)の設置や貿易決済の非ドル化の取り組みなども出てきているが、実効性のあるレベルにはほど遠い。通商関係も中国を除くと、加盟国間の貿易量は極めて少ないので、加盟による経済的実利はなかなか見えてこないというのが一般的な見方だろう(もちろん、加盟によって中国の意向に沿うといったような2国間関係のメリットはあり得よう)。
 BRICSの加盟基準は明らかにされていないが、ハードル自体は低そうなので、「入会しやすく縛りも緩いが、メリットも限られるネットワーク」というように整理できるかもしれない。今回のBRICS加盟意向表明に際して、スギオノ外相は、特定の枠組みにこだわらず、あらゆる枠組みに積極的に参加する意向を強調したが、それぞれの枠組みの位置付けや性質はともかく、より多くのグループ・国と接点をもつこと自体を重視する姿勢が読み取れる。
 ネットワーク分析の世界で影響力のある考え方に、「強いつながり」と「弱いつながり」を対比させ、弱いつながりには強いつながりには無いプラスの効果、特に多様かつ幅広い情報を素早く伝播させるのに役立つとの考え方がある。すべての国と強いつながりを構築することは難しいことも考えれば、より多くの国との弱いつながりも、有形無形の情報へのアクセスという意味ではメリットがあるかもしれない。
 一方、ネットワーク論の別の考え方、ネットワークの中心性(Centrality)は、ネットワークにおける各プレーヤーの重要性をいくつかの角度から測りそれによる異なる効果を明らかにしたものだが、これを援用して考えると、ただ単につながりを増やすだけでなく何らかのかたちで自らの求心力を高めることにより、ネットワークの活用余地が高まることも示唆される。インドネシアにとってOECD加盟は、貿易政策や投資受け入れ、環境対応など幅広い分野での審査をクリアする必要があり、BRICS加盟に比べるとはるかにハードルの高い試みだろうが、それが実現すれば、国際間のルール作りへの参画など、ネットワークの中心性の獲得につながる意味ある一歩となると言えるのではないだろうか。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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